「カインさん」
「ん?」
 おずおずと話しかけたサリナに、カインは振り返った。彼女の表情は心配そうだった。
「クロイスのこと、どうするんですか?」
 クロイスの弟たちを意識した様子の不安げな声でそう言うサリナに、カインは微笑んでみせた。




「俺がまだ小さかった頃、俺たちもあいつらと同じように貧しかった。
ロックウェルの環境はここよりもずっと悪かったよ。
それでも兄さんは、俺を食わせるために必死になって働いてくれた。お陰で俺は安心して勉強に専念できた」
「時には苦しさのために、盗みに手を出そうと思ったこともあったでしょうね……」
 セリオルの言葉に、フェリオは頷いた。
「ああ。昔、聞いたことがあるよ。兄さんが独り言を言ってるのを。
盗みはだめだ、それだけは、って。そんなことで手に入れた金で、
俺を生活させたくなかったんだろうな。兄さんの力なら盗みなんて簡単だっただろうけど……兄さんらしいよ、まったく」


第21話