第116話

 不気味な血の色に染まったアントリオンは、その巨体に奇怪なマナを漂わせていた。闇を思わせる黒に、濁った血のような暗い赤。体表の脂でぬらぬらと光るその身体は、見る者に吐き気を伴う不快感を味わわせた。
「なんだ……こりゃ……」
 アリスは言葉を失った。砂漠の国に生まれ育ち、自治区を守る戦士として数々の魔物を討伐してきた。アントリオンとも幾度となく戦い、勝利してきた。だが、ローラン随一の戦士である彼女ですら、これほど奇怪なアントリオンを見たことが無かった。
「やだ……やだよお」
 サリナはカインに身体を預け、震えていた。彼女の見開かれた瞳に魔物の姿が映るのを、カインは見た。どう見てもいつものサリナではなかった。彼は、これほど怯えるサリナを知らない。あの黒騎士との戦いの時ですら、彼女はあの圧倒的な力を持つ敵に、果敢に挑んでいった。
「どうしちまったんだ、サリナ」
 彼はどう対処していいのかわからず、仲間たちの姿を探した。皆、こちらを気にしてはいるものの、突如現われた尋常でない魔物を警戒し、身動きが出来ない様子だった。
「こっちを向きなさい!」
 最初に行動したのはアーネスだった。彼女は風水のベルを鳴らした。ベルからマナの光が飛び、巨大なアントリオンに衝突した。魔物はおぞましい咆哮を上げ、アーネスのほうを向いた。
「風水術の力であれのマナに干渉したわ。私が注意を引くから、皆は攻撃とサリナを!」
 口早に指示を出し、アーネスは剣と盾を構えて魔物に突進した。敵はその巨体に見合う長大な触手を振り回し、アーネスに攻撃を仕掛ける。ブルーティッシュボルトで触手を弾き返し、アーネスは最大速度で駆けたまま跳躍した。
「来たれ風の風水術、音波の力!」
 風のマナが飛び、アントリオンの腹部を狙う。風水術は、身動きしない魔物に着弾し、効果を発動した。直後、跳躍していたアーネスが正眼に構えて突き出した剣が、魔物の甲殻の節目を直撃した。激しい衝突音が響いた。
「ぐっ……!?」
 だが、アーネスの攻撃は敵に痛手を負わせることは出来なかった。アーネスは自らの攻撃の威力を殺され、その反発力によって弾き飛ばされた。剣から伝わってきた衝撃に、手が痺れる。
「今のは……何かの力が働いてるの?」
 手ごたえが奇妙だった。生物の甲殻を叩いたようでも、何か強固な金属を叩いたようでもなかった。まるで空間にガラスが張られたかのような複雑な手ごたえで、しかもその強度は金属に比肩するものだった。
 フェリオの機関銃が火を噴いた。アッシュグレイのガンナーは両手でその銃を構え、トリガーを引き続けた。激しい銃声と、銃口から発される火薬の光。そして敵を殲滅すべく空を切り裂く、鉄の弾丸。
 だが、結果はアーネスと同じだった。標的に着弾する寸前、フェリオの銃弾は激しい衝突音と共にその威力を失い、ばらばらと地に落ちた。
「……何かしてるな」
 硝煙の向こうに見える魔物の巨体を、フェリオは目を細めて見つめた。敵はさきほどから動かない。それがあまりにも不気味だった。
「花天の舞・ライブラジグ!」
 扇を広げ、シスララがマナの舞を披露する。マナの光が溢れ、敵の特性を知らせてくれる。その知識の光を受け、セリオルは言葉を失った。自らの胸に広がるその漆黒の感情に、彼は膝の力が抜けそうになるのを懸命に堪えた。
「ブラッド……レディバグ……」
 ここにもゼノアの手が及んでいた。サリナたちが聖獣の森で戦ったという蜥蜴の魔導師の幻影が、血の色のアントリオンと重なる。無力な蜥蜴に恐ろしい力を与えたという蟲が、砂漠のマナを吸う魔物にとり憑いた。シスララの舞が、その忌むべき事実を彼らに告げた。
 セリオルはカインの許で怯え続けるサリナを見た。戦う意志を失っている。彼は瞳を閉じた。
「アントリオンはマナを吸う……そういうことか」
 セリオルは目を開き、不気味に動かない魔物に視線を戻した。魔物の正体が、彼にひとつの結論をもたらした。
「皆、あれが恐らく、ローランのマナを吸っていた魔物です。ブラッド・レディバグの力でアントリオンの能力が飛躍的に上昇した、そういうことでしょう」
「だったらあれを倒せば、ローランのマナは戻るんだな!」
 アリスは武器を構えた。故郷を守るため、更に豊かな未来を目指すために、ここで立ち止まるわけにはいかない。大きくなったとはいえ、アントリオンはアントリオンだ。これまで何匹と屠ってきた相手だ。
「あたしがやる!」
 頭の中に流れてきた魔物の情報など、アリスにとってはどうでもよかった。わからない言葉がいくつも並ぶだけで、要は正体不明で突然変異か何かのアントリオンだ。いつもどおりにやればいい。
「アリス、危険だ! 戻れ!」
 魔物に向かって走り出したアリスに、フェリオは制止の言葉を投げた。だがアリスは止まらない。彼女はブラッド・レディバグの恐ろしさを知らないのだ。これから始まるはずの、人智を超えた力同士のぶつかり合いを、彼女は予見していない。
「弓技・影縫い!」
 疾走するアリスの影を、クロイスの矢が射抜いた。アリスはその動きをぴたりと止めた。
「なに……するんだ、よ……」
 恨めしげな声のアリスに、クロイスは腰に手を当て、早口にまくし立てる。
「あれはあぶねーんだ! 冷静になれ!」
「なにが……ただの、アントリオン、だろ」
 なおも身体に力を入れ、アリスは影縫いの効力に抗しようとする。クロイスは嘆息交じりに更に言葉を発しようとしたが、それに先んじて動いた仲間によって、彼の警告は不要のものとなった。
「アリスさん」
 近くに来たのは、エル・ラーダ自治区の領主の娘、シスララだった。アリスは動かない身体で唯一動く目で、自分と同じ立場の人物を見た。
「あの魔物は危険なのです、アリスさん」
 似合わない早口で、シスララは説明した。動きを止めたままのアントリオンから視線を外さず、彼女はアリスに語る。
「かつて、エル・ラーダの幻獣様を祀る森で、同じようにブラッド・レディバグという魔法の蟲に侵された魔物が現われました。その魔物は元は無力な蜥蜴だったのが、黒魔法の奥義、アルテマを詠唱するまでの力をつけ、幻獣様を封印したのです」
 その言葉は、アリスの耳から脳、そして全身へ、ゆっくりと浸透していった。ブラッド・レディバグ。さきほど頭の中に流れてきた言葉だった。あの魔物は、ブラッド・レディバグの侵食を受けている。それは、ローランに壊滅的な被害をもたらすことが出来るほどの力を持った、考えるのも恐ろしい魔物であるということを意味していた。
「……わかった」
 頷けない彼女がそう言った直後、彼女の身体は自由を取り戻した。クロイスが影縫いを解除したようだった。
 アリスは魔物と対峙した。その不気味な姿を睨みつける。さきほど、セリオルが言った。この魔物が、ローランのマナを吸っていたのだと。確かに魔物にそれだけの力を与える蟲が憑いているのだとすれば、頷ける話だ。さきほどのアントリオンの群れも、この魔物が率いていたものだったのか。世界に仇なす者、ゼノア・ジークムント。その男が放ったのだとすれば、ローラン、あるいはタイタンを滅ぼすための所業であることは間違い無いだろう。
「そんなことは、絶対にさせねえ。てめえはあたしがぶっ倒してやるよ!」
 剣の切っ先を、魔物に向ける。ブラッド・アントリオンは動かない。ただ、そのマナを吸うというおぞましい口だけが動いた。
「クックックック……勇ましいことだな、砂漠の姫よ」
「なにっ!?」
 それは地の底から湧き上がるような、不気味な声だった。声を発すると同時に、魔物の纏うマナが増大する。サリナが小さく悲鳴を上げる。
「我が同胞の命を数え切れぬほど奪った仇敵を屠るせっかくの好機を邪魔しおって……」
 ぐるりと回頭して、魔物はクロイスのほうを向いた。クロイスは舌打ちをした。やっぱりこいつも言葉を理解してやがる。魔物はマナを練り上げた。魔法か、あるいは他の攻撃を仕掛けるつもりか。いずれにせよ、防がねばならないことは明白だった。
「こっちを向きなさいと言ったでしょう?」
 今一度、風水のベルが鳴る。マナの光がブラッド・アントリオンに命中する。
「ぬううううううっ」
 アントリオンはクロイスへの攻撃を、そのまま向きを変えてアーネスに放った。それはどす黒いマナの塊だった。
「轟け、私のアシミレイト!」
 琥珀の光が膨れ上がる。大地に祝福され、その力を我が物として自在に操るマナの戦士。地の幻獣、碧玉の座、翼持つ雄々しき獅子、アーサーを従える琥珀の騎士。アーネスは眩い光で、敵の忌まわしいマナを掻き消した。
「私がいる限り、お前は他の者を攻撃することは出来ない。いいな」
 盾を構え、アーネスは剣の切っ先を魔物へ向ける。騎士の力、風水術の力、そして幻獣の力。自らの持つ3つの力をひとつとして、アーネスはブルーティッシュボルトを琥珀色に輝かせる。
「おのれ……そのマナ、吸い尽くしてくれる!」
 敵の標的がアーネスに変わった。そのタイミングを見計らって、セリオルは仲間たちに素早く指示を飛ばす。
「クロイス、シスララ、支援を! あの魔物の守りは、恐らく私にしか突破できない! アリス、あなたは我々が作った隙を突いて、急所への攻撃を!」
「わかった!」
「はい、かしこまりました!」
「ちっ……頼んだよ!」
 セリオルは観察していた。さきほど、アーネスとフェリオの攻撃を防いだ力。間違い無くマナを使った防御だ。彼はそれと似たようなものを知っていた。ただし、仲間から伝え聞いたその力は、アントリオンのものよりもより完璧で、精度の高い守りの術だった。
 彼とフェリオがエル・ラーダでリンドブルムを改造している間にサリナたちが聖獣の森で戦った、蜥蜴の魔導師。その放ったアルテマの力。黒魔法奥義は、マナの練成完了から発動までの間、詠唱者に向けられる全ての攻撃を遮断する。彼も知るその完璧な守りの術と、アントリオンの術はどこか似ていた。
 つまり、高度に純化されて放出されるマナが持つ、他の力を拒絶しようとする力だ。
「ということは、それ以上の力を持つマナをぶつけるか、あるいはマナを逆流させてやるか、ですね」
 呟いて、彼はサリナのほうをちらと見た。敵から自らを守ろうとしてくれているカインのことも見えないのか、まるで錯乱したかのように何事かを訴えているようだ。
 嫌な感情が胸に広がる。懼れていたことが現実になりつつある。だが、今はそれに対応している時ではない。目の前に現われた、この強大な力を持つはずの魔物を倒さなければ。
「フェリオ、カインと代わってサリナを看てあげてください!」
「……え?」
 出した指示にフェリオが上げた戸惑いの声を、セリオルは首を横に振ることで掻き消そうとした。
「私は離れるわけにはいきません。サリナを救ってください!」
「……ああ、わかった!」
 フェリオは地を蹴った。サリナが怯える理由は、彼にはわからない。だが、セリオルがサリナを自分に託したのだ。それがどれだけ重要な意味を持つか、彼は理解していた。彼の信頼に、彼の思いに、応えないわけにはいかない。
 翠緑、紺碧、純白の光が膨れ上がるのを背後に感じながら、フェリオは走る。そして走りながら、彼は銀灰色のホルスターを取り出した。
「集え、俺のアシミレイト!」
 銀灰の光が出現する。力強き四肢に気高い毛並みを持つ白き巨狼、アシュラウルの力。リストレインはマナの鎧へと変化し、フェリオの身体を覆う。フェリオは走る。神聖な幻獣の光なら、サリナを正気に戻せるかもしれないと期待した。銀灰の光を纏い、彼は兄とサリナの許へ到着した。
「兄さん!」
「ああ、後は頼むぜ、フェリオ!」
 拳と拳をぶつけて、兄弟は互いに背を向ける。カインは紫紺のリストレインを掲げ、戦場へと戻った。
「サリナ……」
 名を呼びながら、フェリオはサリナに近づいた。しかしサリナは魔物に怯え、フェリオのほうを見ようとしない。尻餅をついたまま後ずさり、首を横に振っている。
「やだ……やだ、来ないで」
「サリナ……どうしたんだ」
 その様子は、まるでサリナではないかのようだった。彼の知っているサリナは、どんな危機も困難も乗り越える、誰よりも強い心を持った少女だった。優しく、控えめだが、自らが決めたことは貫き通す、そういう信念を持つ者だった。
 だが、今のサリナは違っていた。それはまるで、天敵の襲来に怯える小動物のようだった。まだ戦ってもいなかった魔物に対して、サリナがそれほどの恐怖を抱く理由が、フェリオにはわからなかった。
「サリナ、大丈夫だ。俺たちがついてる」
 そう言いながら、フェリオはサリナの肩を抱いた。サリナは抵抗しなかった。どうやら仲間のことまで恐れるほど錯乱してはいないようだ。だが、震えている。
「サリナ……?」
 フェリオは、サリナの目を見つめた。銀灰の光が、彼女の栗色の瞳を照らしている。だがアシュラウルのマナを浴びるだけでは、サリナは元には戻らないようだった。彼女の瞳には魔物の姿しかなかった。セリオルたちと激しい攻防を繰り返す魔物が、少女の瞳の中で暴れていた。
「やだよ……持って行かないで。マナを、持って行かないで」
 独り言のように、サリナはそう訴えた。
「マナを、持って行かないで……?」
 恐らく魔物に向けてであろうその言葉に、フェリオは強烈な違和感を覚えた。サリナが言うマナとは、一体何のマナのことなのか。自らのマナか、あるいは仲間たちのマナのことか。それとも、ローランのマナのことを言っているのか。
 いずれにせよ、フェリオはその違和感の正体が何であるのか、すぐに答えを出した。これは、サリナの言葉ではない。状況から明らかだった。彼女は、アントリオンにマナを奪われてなどいないのだから。超越的な力を持つ何者かの意思が、サリナを通して現出しているのだ。
 フェリオはこれまでの情報を、頭の中で整理した。行方知れずの幻獣、タイタン。砂漠のマナを吸うアントリオン。それがブラッド・レディバグの力で恐ろしく強化された魔物。マナ共鳴度の高いサリナが怯える存在。その魔物のせいで減少した、ローランのマナ。
 マナを奪われたのは誰だ。これまでの状況から、仲間たちのことではない。となると、考えられるのはひとつだった。
 地の幻獣、瑪瑙の座、豊かな大地を支える逞しき地王、タイタン。
「いや、そんな馬鹿な」
 フェリオはかぶりを振った。その結論はあり得ない。タイタンがサリナに乗り移ったなどということは。サリナは炎のリバレーターだ。地の幻獣が干渉するなら、アーネスのはずだ。それにそもそも、タイタンが人間の身体を借りて何かを訴える必要がどこにある。自ら姿を現して主張すればいいのだ。だいたい、魔物に怯えるためにわざわざサリナに乗り移ったというのか。
「でも、だとしたら……」
 フェリオは考える。サリナは言った、マナを持って行かないで、と。持っていかれた者がいるのだ。彼らと、タイタン以外に。当然、ローランの民ではあるまい。彼らは何の状況も知らない。他にマナを持って行かれた者があるとすれば、一体誰だ?
 そもそも何のマナを持って行かれたというのか。アントリオンが奪うと言えば、何のマナだ? ローランのマナ、カラ=ハン大陸のマナ、大地のマナ。そう、あの魔物が奪っていたのは、この朽ちた砂牢に満ちていた地のマナだ。それは一体誰のものだ? タイタン? いや、違う。集局点のマナは幻獣のものではない。それを生み出しているのはエリュス・イリアであり、エリュス・イリアのマナを生んでいるのは、世界樹だ。
「……世界樹?」
 生まれかけたその考えを、フェリオは即座に自ら否定した。そんな馬鹿なことがあるものか。世界樹の意思が、世界のマナを奪われるというその恐れが、サリナを通して現われたなど。大体、世界樹に意思があるなんて聞いたことが無い。仮にあったのだとしても、なぜわざわざサリナを介して、その恐れを表現する必要がある。そんなことをするなら、サリナを戦わせて少しでも早く魔物が殲滅された方が良いのだから。……いや、待てよ。
「……わざとじゃ、ない? 世界樹の恐怖を、サリナがたまたま感じ取ってしまったんだとしたら……? あいつは集局点のマナを吸い尽くそうとしてる……サリナは共鳴度が高いから、マナを感じやすい……いや、でも、そんなことがあるか?」
 考えれば考えるほど、わからなくなってくる。だが、他の可能性よりはまだ現実味があるようにも思える。マナの濃いこの場所で、サリナの共鳴度は更に上がっていたのかもしれない。世界樹はエリュス・イリア全土のマナを生み出している、全世界的に見て最も巨大なマナを持つ存在だ。もしもそれが意思というものを持っているのだとしたら、それをサリナが傍受してしまったということは、事によってはあるのかもしれない。
「……いや、考えすぎだな。サリナはマナ探査機じゃないんだ……人間なんだから」
 いずれにせよ、今ここで答えは出ない。今は、サリナを元に戻すことが先決だ。
「サリナ、大丈夫だ。ここには俺たちがいる。俺たちは勝つ。だから大丈夫だ、サリナ」
 両肩に手を置き、目を見て語りかける。だが、サリナの反応は変わらない。フェリオはかぶりを振る。一体どうすればいいんだ。手立てが見当たらない。
「くそっ! 何も出来ないのか、俺には!」
 悔しさに、フェリオは地面を殴った。その衝撃は大地に吸収され、低く鈍い音がしただけだった。状況は何も変わらない。サリナを元に戻すために、何も出来ることが無い。いや、原因がわからないのだから、手の打ちようが無い。……原因がわからない、から……?
「……待てよ」
 フェリオは顔を上げた。サリナの目を見る。虚ろで、魔物の姿しか見ていない。マナを持って行かないで。マナを。マナ。
「原因は、マナだ」
 フェリオは立ち上がった。自らの力とするところの幻獣に、彼は呼びかける。
「アシュラウル、力を貸してくれ!」
 額のクリスタルが鎧から分離し、銀灰の光と共にアシュラウルがその姿を現す。巨狼は低く唸り、ブラッド・アントリオンへの不快感を顕わにした。
「アシュラウル、状況はわかってるだろ」
「ああ、わかっている」
「頼む、探してくれ、アシュラウル。俺の力だけじゃ難しいんだ」
 そう言って、フェリオは幻獣にサリナを示した。アシュラウルはサリナに近づき、鼻を鳴らした。どうやら彼も、サリナの異常さを認識しだようだった。信頼する力の幻獣に、フェリオは頼った。彼はアシュラウルに依頼した。大切な仲間を、サリナを、救うために。
「急いでくれ。あるはずなんだ、ここにあるはずが無い、マナの流れが」