第150話

 雷のマナストーンが込められた2丁機関銃が、凄まじい速さで弾丸を吐き出し続けている。弾丸は機械兵の関節や装甲の隙間に突き刺さり、強烈な衝撃と雷のマナを叩き込んだ。フェリオは機敏に跳躍し、機械兵たちの鋭い攻撃を巧みに回避しながら弾丸を放った。
「くそっ、きりが無い!」
 後方へ素早く跳躍し、フェリオは懐に手を入れた。取り出したのは、炎と風のマナストーンと高性能火薬を使って造った爆弾だった。彼はそれを、迫り来る機械兵の前に投げつけ、同時に銃の狙いを定めて引き金を引いた。
 閃光と轟音が同時に生まれ、爆風が押し寄せた。フェリオは腕で顔をかばいながら、銃をホルスターに戻し、機械兵に背を向けた。爆発が敵を吹き飛ばした。フェリオ自身は、その強烈な追い風を受けて跳んだ。
「フェリオ! 大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ」
 先行していたサリナたちに追いつき、フェリオは短く息を吐いた。首を回して振り返る。
「……やれやれ」
 煙の向こうから、動かなくなった仲間の骸を乗り越えて、なお機械兵たちが迫ってくる。フェリオは自分たちと並んで走るアイリーンを見上げた。
「お前が、あとふた回りくらい大きけりゃな」
「クエ……」
 アイリーンは申し訳無さそうな声を出し、その長い首を僅かにすくめたようだった。
「ふふ。無理を言ってはだめですよ、フェリオさん」
 かなりの速度で走っているというのに、シスララは涼しい顔だった。ソレイユはさすがに大きく揺れる肩には留まらず、並んで飛行していた。
 全力で脚を動かしながら、フェリオは考えていた。
 おびただしい数の機械兵が追ってくる。まともに相手をしていては身が持たないのは明白だった。だから彼は、今いる中で唯一、遠距離からの攻撃手段を持つ者――さすがにあの敵にソレイユをぶつけるのは考えなかった――として、敵の足止めを買って出た。銃と爆弾で少しは勢いを殺げるかと思ったが、あまり上手くはいかなかった。
 機械兵たちには意思など無いだろう。だが、さきほどからの彼らの行動には、何者かの意図が見え隠れしていた。
 機械兵たちは、まるでサリナたちをどこかへ導いているかのようだった。曲がろうとした四辻の通路は、一方を残して先に天井を破壊して塞がれる。瓦礫の撤去作業などするわけにもいかず、サリナたちは残された道を走るしかなかった。そういったことが、何度かあった。
 そのことの意味を、フェリオは考えている。機械兵たちを操っているのは誰だ? それはゼノアか、それとも別の誰かか? いずれにせよ、自分たちにとって良いことは起こらないだろう。友好的な手段でないことだけは明らかだった。
 だが、状況を突破する術も無かった。アシミレイトをすれば一網打尽にすることも可能かもしれないが、まだこの下の階で何が待ち受けているかわからない。幻獣の力を、今使ってしまうのは躊躇われた。
 歯がゆさに、フェリオは胸中で舌打ちをする。このまま進んではいけないとわかっているのに、そうせざるをえない。何も出来ない自分が、情けなかった。
「あはは。初めてだね、こんなに逃げるの」
 どこか楽しそうな、サリナの声。フェリオは驚いてサリナを見た。事態の深刻さにまったくそぐわない、場違いにも思える笑い声だった。
 だが確かに、サリナの言うとおりだった。これまでの旅で、今ほど一目散に逃げたことは無かった。これほどの数の敵を一度に相手にしたことも無かった。
「なんか私、ちょっと楽しくなってきちゃった」
 そう言って、サリナはまた笑った。隣でアイリーンが、同意するように鳴く。
「あら、サリナったら」
 それに釣られてか、シスララも小さく笑う。今度はソレイユが続いて啼いた。そんなやり取りに、フェリオは驚きながらも苦笑した。
「はは……まったく、のんきだな」
 そう言いながらも、フェリオの表情には余裕が戻っていた。サリナがこの状況を楽しんでいるという奇妙さが、彼の心を少し軽くした。
 フェリオはサリナとシスララに向けて言った。
「気づいてると思うけど、俺たちはどこかに連れて行こうとされてる。回避するのは難しそうだ。用心してくれ」
「うん」
「はい」
 ふたりは短く答えた。そして笑うのを止め、脚を動かした。
 その後、機械兵たちによって通路の選択肢を奪われ、強制的に進む先を何度か選んだ時だった。彼らの前に、ついに行き止まりが現われた。ハイドライト内部はかなり広いが、当然その広さには限界がある。いつかはこうなると、彼らは予期していた。
「あ。あれって扉だよね?」
「だな」
 サリナの言葉に、フェリオは頷いた。
 そこは正確には、行き止まりではなかった。扉が1枚見える。その先の部屋へ行くための通路だったのだ。
 ということは、あの部屋へ入らせるのが目的か……そう考え、フェリオは確信を持って振り返った。
 案の定、機械兵たちは速度を落としていた。かといって、その場を去りもしなかった。まるで牢獄へ進む囚人を監視する兵のように、彼らはじっとこちらを、そのレンズで見ていた。
 サリナたちは足を止めた。すると機械兵たちは、ゆっくりと近づいてきた。その身体の光が明滅する機器の類が、なんとも不気味だった。サリナたちはじりじりと後ずさった。ソレイユがシスララの肩に戻る。
「クエっ」
 アイリーンが短く鳴いた。彼女のお尻が、金属の扉にぶつかったのだ。それに気づき、サリナたち3人は一斉に振り返った。
「くそ……入るしか無さそうだな」
「そうですね……」
 シスララは預かったカードキーを取り出した。硬質な感触。その温かくも冷たくもない無機質なカードが、彼女には不気味なものに思えた。
「きっとだいじょぶだよ。ね、とりあえずみんなを呼んでさ」
 根拠は無かったが、サリナはそう言った。さきほどまで心配をかけてしまったことを、気持ちの面でだけでも挽回しようという思いの表れだった。そうだとはわかっていたが、それでも彼女の言葉と声は、フェリオとシスララの心を軽くした。
「ああ、そうだな。ちなみにスペクタクルズ・フライならもう飛ばしたよ」
「えっ……さすが、仕事が早いなあ」
 今度は何の意図も含まない、純粋な感想だった。フェリオとシスララは笑い、サリナはなぜ笑われるのかわからずに混乱した。
「じゃあとにかく、行こう!」
 サリナはシスララからカードキーを受け取り、先頭に立った。後ろでは静かになった機械兵の群れが、不気味に佇んでいる。その不愉快な視線の感覚を無視して、サリナは扉の脇の装置にカードキーを通した。
 扉がするりとスライドして開く。サリナたちは、その暗い室内に用心しながら、足を踏み入れた。

「だああああああっ」
 もう何度目かになるか、床をごろごろと転がりながらクロイスは叫んだ。
「ぷくく。だっせー」
「うっせー前見ろ!」
「え?」
 忌々しく嘲笑するカインに警告してやったが、既に遅かった。
「のおああああああっ」
 カインはさきほどのクロイスとそっくりな姿勢で床を転がった。
「けけけ。ぶざま」
「うるせい!」
 すぐに立ち上がり、カインはクロイス――ではなく、目の前の敵を睨み付けた。
 津波のような合成獣の大群から、彼らは一目散に逃げた。逃げ始めてすぐにフェリオから、預けておいたスペクタクルズ・フライが送られてきた。緊急時や7桁のコード発見時の連絡用にとしてあったが、結果としてそれは、両方のグループがほぼ同じ状況に陥っていることを知らせてくれた。
 カインはすぐに返答のスペクタクルズ・フライを送った。フェリオには1匹しか預けなかったが、こちらにはまだ十分にストックがある。
 向こうも似たようなことになっているということは、どこかの部屋へ誘導され、厄介な敵にぶつかっているのか……想像して、カインは内心にやりとした。サリナとシスララに挟まれ、アイリーンやソレイユもいる中で、フェリオはきっと奮戦していることだろう。あれで紳士的なところがあるのだ、彼の弟は、
「ボム・ブレット!」
 獣ノ箱を解放する。アルカナ族、ボムの力を封じたものだ。青白い炎となったボムは真っ直ぐに敵に向かって飛び、ぶつかって大爆発を起こした。敵はその巨体をぐらりと揺らしたが、倒れはしなかった。
「くそー、タフな野郎だ」
 言いながら、カインは楽しそうに笑っていた。それを見て、アーネスは呆れた顔だった。
「ちょっと、笑ってないでしっかりやってよ!」
 言いながら、アーネスは盾を掲げた。騎士の紋章の力が宿り、光の盾が生まれる。
「フンババー!」
 それは敵の声だった。彼女に向かって振り下ろされた巨大な拳を、激しい衝撃と共に受け止めた。全身に走る痺れるような衝撃に、アーネスは奥歯を食いしばる。
「まったく……とんでもない馬鹿力ね!」
 その馬鹿力が生み出すシンプルな攻撃を、アーネスは盾を振って跳ね返した。敵は腕をぐるぐると回している。
「火柱よ。怒れる火竜の逆鱗の、荒塵へと帰す猛襲の炎――ファイラ!」
 立ち昇る紅蓮の火柱が敵を包む。敵は炎の中で身を捩り、苦悶の声を上げた。
 やがて炎は、敵の振り回す腕の力もあり、消えた。敵は全身を焦げ付かせ、怒りに叫ぶ。
「フンババー!」
「フンババー!」
 カインとクロイスに迫る敵も、同じ叫び声を上げた。相棒が痛手を負ったことに怒っているのか、敵はその丸太のように太い腕を、力任せに振り回した。
「だあああああうるせえええええ!」
 そう怒鳴りながら、しかしカインはどこか楽しさを感じていた。
 敵は、2体いた。大猿と大熊、それに大陸亀を合成されたらしき、いかにも力自慢でそれ以外に能の無さそうな合成獣である。カインたちが相手にしているのは、右半身が大猿、左半身が大熊、背中に巨大な棘の生えた分厚い甲羅。セリオルたちの前にいるのは、右半身が大熊、左半身が大猿、背中には同じ甲羅。よくわからないが「フンババ」と鳴く――というか、叫ぶ。
 見た目どおりの怪力とその長い腕、大きな身体で大雑把な攻撃を仕掛けてくる。なぜか腕が伸びる。そのためカインとクロイスは間合いを見誤り、何度も足を取られて床を転がることになった。
 耐久力も相当なものだった。4人は全力の攻撃を続けていたが、なかなか決定打にならない。
「フンバンバ!」
「またかい!」
 忌々しいことに、セリオルたちが相手にする方のフンババ――と、彼らは呼ぶことにした――は、ある程度のダメージを与えても、不思議でコミカルな踊りをすることで傷を回復してしまうのだ。しかも自分だけでなく、相方の傷も回復する。ただでさえ突出した頑丈さを誇るというのに、回復手段まで持っているのだった。
「集中攻撃するしか、無いですね」
 セリオルは眼鏡の位置を直した。回復手段を持つのは、どうやら彼の前にいる方だけのようだった。
 当初は、ふたりずつに分かれて1体ずつを相手にしようと考えた。片方だけを攻撃すれば、もう片方の攻撃に対して無防備になってしまうからだ。
 だがこうなっては、回復手段を持つほうから集中攻撃で撃破するしかない。このままジリ貧になっては、すぐにマナが尽きてしまうだろう。セリオルは反省していた。エーテルを浪費していなければ、絶え間なく魔法を放つことで撃破できただろう。
 いや、あれはもう、使うべきではないか……アーネスにすら“怖い”と表現されたあの攻撃は、封じるべきだろう。瞬間的な火力は出せても、その後に非常事態が発生した時に対応出来なくなる。それに――仲間たちの記憶に刻まれた彼のあの姿を、思い出してほしくはなかった。
「私が向こうを引き受けるわ。こっちを3人で倒してちょうだい!」
 言い残して、アーネスはカインたちのほうへ走った。仲間たちは素早く短く返事をし、カインとクロイスがアーネスと立ち位置を交換しようと走った。
「フンババ! フンババー!」
 そのふたりを、フンババが追おうとする。だが既に、彼の前にはアーネスが立っていた。
「こっちを向きなさい!」
 アーネスの技、挑発。敵のマナに干渉し、アーネスはフンババの注意を自分へ向けさせる。無理矢理標的を変えられてフンババは唸り声を上げるが、もはや彼はアーネスにしか攻撃を向けられなかった。
「じっくり相手をしてあげるわ……おサルさん」
「フンババー!」
「あら、クマさんだったかしら?」
「フンババーーー!」
 アーネスは蒼穹のブルーティッシュボルトを掲げる。騎士の紋章が輝きを放つ。光の盾が、フンババの巨大な拳を受け止める。
「さーて、そんじゃこっちもおっぱじめますか」
 アーネスが戦闘を開始したのを確認して、カインは右の拳で左の手のひらを叩いた。獰猛な笑みが浮かんでいる。
「回復される前に一気に決めます。しっかりついてきてくださいね、ふたりとも」
 にやりとして、セリオルはそう言った。テトラマナロッドにマナの輝きが宿る。
「へっ。そっちこそ、俺のスピードに遅れんなよ!」
 両手に1本ずつ短剣を握り、クロイスもカインと似た笑みを浮かべた。それを見て、セリオルは胸中で面白がっていた。なんだかんだ言いながら、この少年はカインを目標にしているのだろう。自分でそれに気づいているのかはわからないが、だんだん似てきているのは確かだった。
「おや、言うようになりましたね、クロイス」
「へん。俺だっていつまでも、教わってばっかじゃねーんだよ!」
 何を教わると言っているのかわからなかったが――恐らくマナについてのことだろうと予想はついた――、クロイスが自信を持ってきていることの証だった。ダリウから施されたマナを使った戦闘術の基本が、確かに花開いている。
「いくぜ! 裏技・フリーエナジー!」
 2本の短剣が弧を描いて飛ぶ。クロイスの狙いは敵の腕だった。あの凄まじい膂力を誇る腕を痛めてやれば、攻撃の手は緩まるだろう。
「フバー!?」
 果たして、短剣は見事にフンババの腕を切り裂いた。両腕に傷を負い、フンババはその両方を手で押さえようとしたが、右手が左腕の傷、左手が右腕の傷に、それぞれ微妙に届かない。
「フンバ……フンババ……」
 おろおろするうちに、長い腕が邪魔に思えてきたのか、フンババは自分の腕を睨みつけ、目で負い始めた。次第に傷を押さえることを忘れ、フンババはついに、自分で自分の腕に噛み付いた。
「フンバーーー!?!?」
「……あいつ、あほだぞ」
「ですね……」
 なんだか敵ながら哀れに思えてくるが、だからといって見逃すわけにはいかない。実際には逃げられないのは自分たちのほうなのだが、セリオルはそんな気持ちになり、やれやれとかぶりを振った。
「畳み掛けますよ!」
「おう、任せとけい!」
 怒涛の連続攻撃が始まった。
 獣ノ箱が、矢が、青魔法が、短剣が、黒魔法が、鞭が、盗賊刀が嵐のように、次から次へと襲いかかる。フンババのほうも黙ってやられてはいなかった。突然の猛攻撃に最初は狼狽したが、すぐにそれを怒りによって忘れ、巨獣は長い腕を振り回して反撃した。
 だがクロイスの最初の攻撃が功を奏し、フンババの攻撃は勢いを殺がれていた。無尽蔵のスタミナがそれを補ってはいたが、カインたちが何度も捕まっては床を転がる羽目になった、今はアーネスが食い止めているフンババほどの切れは無かった。
「おせーよ」
 ゆらり、と陽炎のように、クロイスの姿がぼやけて消えた。そこにフンババの張り手が突き出されたが、空を切るだけだった。
「フンバ?」
「罪深き罪を忘れし悪鬼ども、偉大な大地に倒れ震えよ――クエイク!」
 動きに隙を作ったフンババの足元の床が波打ち、凄まじい勢いで地のマナが突き出した。マナは巨大な槍となってフンババを攻撃した。巨獣の身体が、たまらず宙を舞う。
「フババー!?」
「青魔法の拾・デスレイ!」
 合成獣からラーニングした破壊光線を、カインは放った。その恐るべき破壊力を持った光線が、宙を舞うフンババの身体を正確に貫く。巨獣は左肩を焼かれ、悲鳴を上げる。
「フンババー!?!?」
 なんとか着地し、フンババは身体を起こそうとした。彼は傷を回復すべく、踊ろうとして足を上げた。
 だが、もう遅かった。
 音もなく背後に回っていたクロイスが跳躍し、巨獣の後頭部から首にかけて、渾身の一撃を叩き込んだ。敵の意識が自分に向いていない時、背後からの攻撃のみにおいて絶大な威力を発揮する、クロイスの技だった。
「裏技・不意打ち」
 巨獣は白目を剥いた。ずずん、と大きな音を立てて、恐ろしいまでの体力と腕力を誇った合成獣は沈んだ。力を失った合成獣は、まるで植物が急激に枯れるようにして衰え、その最期はマナの光となって中空に消えた。
「フ、フフフ、フンババー!?!?」
 それに気づいたもう1体が、驚きと悲しみの叫びを上げる。
「来たれ聖の風水術、極光の力!」
 外を覆う夜空から聖のマナを集め、アーネスが風水のベルを振る。マナは無数の光の剣となり、美しい軌跡を描いて飛んだ。残光はほうき星の尾のように儚く消え、光の剣は注意を逸らした巨獣の腕に、深々と突き刺さった。
「フバババ!?」
「まったく……ほら、やっちゃって」
「任しとけ!」
 さすがにフンババの怪力を受け続けて、アーネスは疲労していた。後をカインたちに任せ、彼女は少し退いた。
 勝負は呆気なく決した。セリオル、カイン、クロイスの3人による攻撃は苛烈を極め、おつむの弱いフンババは全くついていけなかった。腕を振って応戦するものの、振り過ぎて身体ごと遠心力に持っていかれ、目を回したところにカインの獣ノ箱から飛び出した朽ちた砂牢の怪魚に貫かれ、倒れた。
「あーやれやれ。最初っからこうしてりゃ簡単だったんだな」
 ぐっと伸びをして、カインはそう言った。攻撃の手が2から3に増えれば、連携攻撃の効果もあって、総合的な火力は数倍に跳ね上がった。彼は傍らで武器を収めるクロイスを見た。いつの間にか、随分頼りになる戦士に成長している。
「言ってもしょうがないことを言わないの。それより、ほら、あれ」
「あん?」
 アーネスが指差したのは、マナの光となって消えた2体のフンババのちょうど中間あたりの空中に、小さな光の球が出現していた。
「あれは……」
 セリオルは目を細めて光の球を見つめた。見覚えは無かった。だが、危険なものにも見えなかった。
 やがて光は消え、そこには1枚の紙切れが舞っていた。セリオルたちは近づき、床に落ちた紙を拾い上げた。
「コード……?」
 その紙には、4桁の数字が記されていた。胸がざわつくのを、セリオルは感じた。誰かが仕組んだのだ。自分たちが地下4階へ進むためのコードを探すことを予見し、こんな手の込んだ罠を張った。そしてあろうことか、それを突破した褒美とばかりに、コードの半分を与えた。
「……ナメてやがんな」
 ゼノアか、あるいは他の誰かか。ハイドライトの深部に潜むのであろうその存在の影に対してふつふつと怒りが湧き上がるのを、カインは止めることが出来なかった。