第151話

 兄から送られてきたスペクタクルズ・フライから、フェリオはどうやら助けは来なさそうだと判断した。
「向こうも似たような状況みたいだ」
「えーっ」
 油断無く鳳龍棍を構えながら、サリナは困った顔をした。その隣で、アイリーンが興奮した声を出す。
「ここは私たちで切り抜けるしか、無いのですね」
 シスララの声は落ち着いていたが、彼女も緊張した面持ちである。ソレイユはすでに翼を広げ、空中で臨戦態勢を取っていた。
 サリナたちが追い込まれた部屋は、セリオルたちの部屋と同じくらいの広さだった。ただし、彼女たちの前に現われたのは巨大合成獣フンババではなく、巨大機械兵だった。
「やれやれ……蒸気機関技師の立場が無いな」
 それは驚異的な技術の集積された兵器だった。敵として現われた以上、破壊しなければならない。だがフェリオは、その構造を分析したいという強い欲求に駆られていた。
 駆動はキャタピラだが、まるで二足歩行のように動く脚を持っている。上体は無骨な戦車を思わせるが、突き出したそのボディは巨人の顔のようにも見えた。左右に3対のアームを持ち、モーター音を唸らせて動くそれには、右に巨大な剣や槌に槍、左にバズーカ、機関銃、電磁銃と凶悪な武器が備えられている。
「登録名……ジャガーノート、か」
 巨大機械兵の側面に、その名が刻まれていた。この兵器の呼び名なのだろう。その意味するところは、“圧倒的な破壊力”。幻獣研究所の機械技術は大したものだった。
 蒸気機関は失われたマナ技術の代替として生み出され、世界に広まった技術である。比較的安価に製作可能で、大きな機械を必要とするために設置場所の制限はあるものの、何にでも応用の利く利便性によって、特に王都などの都市に住む人々の生活や、肉体労働者たちの仕事を支えている。
 だがこれほどの機械兵を、蒸気機関を使って動かすのは難しいだろう。巨大な機械であればあるほど、必要な蒸気機関の装置は大きくなるし、使う燃料も多くなる。
 いや、とフェリオは胸中でかぶりを振る。このジャガーノートどころか、これまでに撃破してきた小型の機械兵でもそうだ。蒸気機関を小型化する技術は、現在のところそれほど進化していない。むしろ小さな機械兵のほうが、造るのは難しいかもしれない。
 技術者として、フェリオは嫉妬心が芽生えるのを自制出来なかった。これほどの技術が世に出れば、世界は変わるだろう。
 もっともそのためには、マナストーンがより安価になり、扱いやすくならなければならない。マナストーンよりも高出力のマナ動力は、現在のところ限られた者にしか扱うことが許可されていない。高度なマナ技術が一般化されるのはまだまだ先だとはわかりながらも、これほどの兵器を目の当たりにすると、やりきれない思いがフェリオの胸を焦がす。
 ジャガーノートのカメラが、サリナたちの姿を捉える。まるで生物の視線のように、サリナには感じられた。走る緊張に、彼女は身構える。
 低い駆動音を響かせて、ジャガーノートが攻撃を開始した。
 サリナたちは素早く散開した。アイリーンはすぐにその場から離れ、安全なところまで距離を取った。さすがに、チョコボが相手を出来る敵ではない。
 機関銃がサリナに向けて発射される。サリナは素早くその場を退き、目にも留まらぬ動きで走ることで、ジャガーノートに照準を絞らせまいとした。機械兵の目は正確にサリナの動きを捉えていたが、攻撃を命中させることは出来なかった。
 走りながら、サリナは詠唱を開始した。
「愚者よ見よ、その目が映すは我の残り香――ブリンク!」
 幻影の魔法。万一あの銃弾を受けてしまっても3回までなら幻影が身代わりとなってくれる。彼女は続いて、一定までのダメージを無効化する堅守の魔法も詠唱した。もちろん、フェリオやシスララにも効果が及ぶようにした。
 放たれる銃弾を回避し、振り下ろされる剣から身をかわし、サリナは先制の一撃を放った。解放されたマナの乗った鳳龍棍は、しかし素早く出された巨大なシールドによって防がれてしまった。ジャガーノートはそれを、ボディの上に搭載していたらしい。細めのアームが動き、その盾が出現した。盾には対マナ用の防御の術が施されているようで、放出されたサリナのマナは、まるで海水に落ちた雷のように拡散してしまった。
「うう……」
 サリナは歯噛みした。鋭い攻撃を出したつもりだった。防がれてしまうとは思わなかった。
「サリナ、下がれ!」
 フェリオの警告。サリナは素早く後方へ跳躍した。
 フェリオの2丁機関銃が火を噴いた。シールドを出したアームを狙ったものだった。
 他の機械兵と同様、雷のマナを動力としているのだろう。そうだとすれば、しかるべき箇所に雷のマナを纏わせた攻撃を撃ち込めば、回路をショートさせてダメージを与えることが出来るはずだった。フェリオの雷の弾丸は、左アームの関節部分に向かって正確に飛んだ。
 だがジャガーノートは素早かった。
 キャタピラから上の巨体が、瞬時に回転した。どうやらボディを支える構造が、180度回転するようだった。フェリオの弾丸は、巨大な鋼鉄の剣によって全てなぎ払われた。フェリオは舌打ちをし、次の弾丸を装填する。
「花筵の舞・クイックステップ!」
 扇を広げ、シスララがマナを操る。光の粒は流れとなってジャガーノートに浴びせられた。その途端、機械兵の動きが鈍った。それは敵の回避能力を低下させる舞だった。
 これを好機と見たサリナとフェリオは、ジャガーノートの左右から同時に攻撃を仕掛けた。
 マナを纏った鳳龍棍の連撃と、轟音を立てて連射される雷の銃弾が機械兵を襲う。素早い回避を封じられたジャガーノートは、左右のアーム1本ずつを破壊された。槌とランチャーが床に落ちる。
「やった!」
「よし!」
 攻撃を成功させたふたりは歓声を上げた。だが、その直後に彼らは、我が目を疑うことになる。
 ジャガーノートの全身に明滅するランプが、一斉に青に染まった。
「な、なに?」
 警戒し、サリナは鳳龍棍を構える。いつどんな攻撃が飛んで来ても回避可能なように、膝を緩めておく。
 だが、攻撃は来なかった。
「おいおい……冗談じゃないぞ!」
 ジャガーノートは、その全身の関節から蒸気のようなものを噴き出した。蒸気は泡状になってボディを薄く覆い、更に破壊されたアームへと伸びる。無残に捻じ切れてしまった左腕から泡が伸びたかと思うと、床に落ちた剣に到達し、見る間に泡は剣をアームの許へと戻してしまった。
 そしてあろうことか、機械であるというのに、生物の傷が治癒する時のように、綺麗にアームと剣を接合して修理してしまったのだ。
「うそ……くっついた……」
「回復、するのですね……機械ですのに」
 サリナとシスララは、呆然としてその様子を見ていた。
「見てる場合じゃないぞ!」
 再びフェリオの警告が飛んだ。サリナとシスララは素早く武器を構えた。
 ジャガーノートは、シスララの舞の効果も回復してしまったようだった。再び素早い動きで、左右のアームから攻撃を繰り返してくる。
 敵の攻撃はアームによるものだけではなかった。時にはボディを中央で開き、内蔵された火炎放射器やマナ砲での攻撃も行った。その攻撃は、まさに嵐のごとしだった。
 だがサリナたちに回避出来ないものではなかった。3人は猛攻をかいくぐり、再びシスララの舞で回避力を下げたジャガーノートに、渾身の一撃を叩き込んだ。左右のアームが破壊されて床に落ちる。
「一気にいくよ!」
 サリナが号令をかける。フェリオとシスララは頷き、再び敵が回復してしまう前に、更なる攻撃を加えた。雷の銃が火を噴く。輝く棍が舞い踊る。光の槍が宙を切り裂く。圧倒的な攻撃力で、サリナたちは残る4本の腕の破壊に成功した。
「よし、あと少し!」
 額の汗を拭い、フェリオは銃を2丁機関銃に組み替える。あとは主要な回路をショートさせ、サリナとシスララに止めを刺してもらえばいい。彼は武器を構えた。
 その瞬間、ジャガーノートの巨体が震えた。
「なんでしょう?」
 落ち着いた口調ながら、シスララの表情は険しい。さきほどから、予想不可能なことを起こす敵だった。今度も何かしでかすのかと、警戒が高まる。
「いいよ、一気に決めちゃおう!」
 サリナは構わなかった。総攻撃で決めてしまえばいいのだ。彼女は棍を構え、敵に突進した。
「だめだ、サリナ! 下がれ!」
 フェリオの鋭い声が飛ぶ。だが、遅かった。
 ジャガーノートのボディが中央で開いた。それを見たと思った瞬間、サリナは視界を奪われていた。
 青紫の光が放たれた。それは正面から迫っていたサリナに浴びせられた。
「うわっ!?」
 その眩しさに、サリナは腕を目の前に翳した。目くらましで敵の動きを見失うわけにはいかない。油断無くジャガーノートの動きを、サリナは見ていた。
 そう、サリナは油断していたわけではない。冷静に状況を分析して、今が決め時だと判断したのだ。ここまでのジャガーノートの攻撃方法から考えて、アームが無くなればボディを開いて火炎かマナを放出してくるだろう。それを回避して、外側の装甲よりも脆いはずの内部に攻撃を加える。それも、全身の力を篭めた渾身の一撃を。それが、サリナの狙いだった。
 だが、ジャガーノートはまだ攻撃手段を持っていた。
 光が収まり、サリナは細めていた目を開いた。特にダメージは無い。ただ光が放たれただけだった。身体のどこからも、痛みは伝わってこない。サリナは顔の前に翳していた腕を下ろした。
 だが、腕は下ろせなかった。
「えっ……?」
 戸惑いと焦りがサリナを襲った。腕が動かない。いや、腕だけではない。脚も、顔も、身体のどこも、動かすことが出来ない。かろうじて目と口だけは動いた。その動く目を、巨大機械兵に向ける。
 ジャガーノートは再びボディを開いていた。大きな機械音に続いて、巨大なマナ砲が顔を見せる。
「まずい! サリナ、どうした! 離れるんだ!」
「サリナ! どうしたの!?」
 フェリオとシスララの鋭い声が飛ぶ。その声と一緒に、サリナは自分の心臓が暴れ狂う音も聞いていた。焦りが全身を駆け巡る。マナ砲にマナが収束していくのがわかる。
「う、動けない!」
 切迫したサリナの声だった。フェリオとシスララは、考える前に走っていた。事情はわからないが、ともかくサリナを助けなければならない。ジャガーノートのマナ砲は、今にも放たれようとしている。アシミレイトもしていない状態であれを正面から受ければ、ただでは済まない。
「クエーッ!」
 だがふたりよりも速く、サリナの許へ駆けつけた者があった。陽光色の風となったアイリーンが飛び込んだのだ。賢きチョコボは主人の道着の襟を素早く加え、サリナの小柄な身体を持ち上げた。そしてそのまま、その場を駆け抜けた。
 その一瞬後、ジャガーノートの凶悪なマナ砲が放たれ、さきほどまでサリナがいた場所の床を穿った。床は轟音を上げて破壊された。
 フェリオとシスララは足を止め、ほっと息を吐いた。アイリーンがいて良かった。人間の足では間に合わなかったかもしれない。
「シスララ、サリナを!」
「はい!」
 フェリオの指示に従い、シスララはサリナとアイリーンの許へ走った。とにかく状況を把握しなければならない。
 フェリオは銃を構えた。雷のマナストーンを装填する。マナストーンボックスを起動する。銃身に込めた弾丸が、雷のマナを宿して胎動する。
 2丁機関銃がけたたましい銃声を上げる。凄まじい連射だった。嵐のように襲いかかる雷の銃弾が、ジャガーノートの厚い装甲に食い込む。今はダメージを与えるのは二の次だった。敵の照準がサリナに向かないよう、フェリオは攻撃を続けた。
 2丁機関銃の掃射、長銃での精密射撃、マナ爆弾での爆破、そしてランチャーによるグレネード弾。銃声と爆発音が響き、爆風が巻き起こる。ジャガーノートはフェリオに照準を絞り、火炎放射器で応戦した。フェリオの連続攻撃は、あの蒸気と泡による回復の間も与えなかった。
「サリナ、大丈夫?」
 一方、サリナはまだ動くことが出来なかった。それだけではない。視界が闇に覆われつつあった。徐々に光が見えなくなってくる。更に、全身を激しい虚脱感が襲っていた。心臓が脈打つたびに大きな痛みが全身に走る。脂汗が出てくるのがわかるが、それを拭くことも出来なかった。
「う、うう……」
 ガチガチと鳴る奥歯をどうにも出来ず、サリナは震えた。自分の身に何が起こったのか。これまで感じたことの無い苦しみに、サリナの頭は混乱していた。
「サリナ、聞こえる? とにかく状況を教えてもらえる?」
 シスララも焦燥に駆られていた。いつもならセリオルがいる。彼が看れば、サリナがどんな状態に陥ってしまったのかもすぐにわかるだろう。だが、自分にはひとを看る能力が無い。どうすればいいのか、皆目見当がつかない。シスララは苦しげに目を閉じたサリナの額の、汗を拭ってやった。熱く、そして衰弱している。
「あ、熱い……身体が、燃えるみたいに……それと、目が、見えない……」
 震える唇で、サリナはかろうじてそう言った。シスララは目を見開いた。
「フェ、フェリオさん!」
 その緊迫した声は、フェリオの鼓膜を鋭く震わせ、彼の脳を活性化させた。サリナがまずい。
「どうした!」
「サ、サリナが……サリナが!」
「落ち着け!」
 間断無く攻撃を繰り返し、敵の放つ火炎を回避しながら、フェリオは叫んだ。
「状況を教えてくれ!」
「あ、あの……その……」
 シスララも混乱している。それだけまずい状態ということか。フェリオは声に力を込めた。
「深呼吸するんだ! 落ち着いて、サリナの状態を教えてくれ!」
「は、はい!」
 言われた通り、シスララは大きく息を吸い込んだ。ソレイユの心配そうな声が聞こえる。胸に手を当て、彼女は呟いた。
「私が慌てていてはだめ……しっかりしないと!」
 もう一度大きく息を吸い込む。そして彼女は叫んだ。
「サリナ、身体が動かなくなってしまったみたいです! それから、身体が熱くて、衰弱しています。目も見えなくなってると言っています!」
「なんだって……?」
 飛び込んで来た情報が、フェリオを僅かに混乱させた。ただ、流石に彼は冷静だった。火炎放射に代わって放たれたマナ砲を素早く回避し、彼は頭を働かせた。
 さきほどの青紫の光。あれを浴びせられて、サリナは体調を急変させた。間違い無く、あれはマナ兵器だろう。だとすれば、サリナに起きた異変は何らかのマナ効果であるはずだ。
 身体を動かすことが出来ない。全身を蝕む熱病のような症状。そして奪われた視界。そんな効果を生み出すマナとは、何だ。どこかで見たことがあるような気がする――
 気づけば、目の前にあの青紫の光を放つ装置が迫っていた。
「邪魔だ!」
 2丁機関銃を、フェリオは掃射した。激しい銃弾の雨が装置を襲う。ガンガンと破砕音を立てて、装置が破壊された。マナの光が明滅する。
 その光が、フェリオの脳裏に閃きを与えた。
「サリナ、解呪だ! 君に起きたのは、捕縛と猛毒と暗闇の、黒魔法の効果だ! 解呪を唱えるんだ、サリナ!」
 銃声の合間を縫って、その声はサリナに届いた。見えなくなった目で、サリナはフェリオの姿を追った。フェリオは戦っている。自分とシスララに危害が届かないように、あの凶悪な機械兵の注意を引いてくれている。そして、戦いながら彼は、自分を救う道まで見つけ出してくれた。
 閉ざされた視界に、光が輝いたようだった。サリナはシスララの腕の中で、唇を動かした。マナを練り上げる。呪文を詠唱し、世界を変えるマナの法則、魔法を発現させる。
「舞い踊れ、解き放たれし天の羽衣――パラナ!」
 マナの光がサリナを包んだ。その劇的な効果に、シスララは驚いた。光が消えてすぐ、サリナは起き上がった。フェリオの考えが正しかったことがわかった。
「穢れ無き大樹の雫、聖香油――ポイゾナ!」
 美しいマナが舞う。その清浄な力は、サリナの身を蝕み、体力を奪っていた毒を消し去った。
「光あれ、聖なる道を歩む者――ブライナ!」
 そして彼女の瞼を、光が包んだ。暗闇の解呪。サリナは目を開いた。光が戻った。巨大な機械兵の猛り狂う姿、そしてそれに応戦する、自分と同い年の少年の姿。
「天の光、降り注ぐ地の生命を、あまねく潤す恵緑の陽よ――ケアルラ!」
 回復の魔法が、失われた体力を取り戻してくれる。サリナの心は、炎のように燃えていた。自分を苦しめたジャガーノートに対する、怒りや憎しみではなかった。敵の術中にはまってしまった、不甲斐無い自分を責める感情でもなかった。
 それは、フェリオとシスララに対する、感謝の心だった。
「サリナ、大丈夫?」
「うん。ごめんね……心配ばっかりかけて」
 口にして、胸が痛んだ。さっきからずっと、仲間に迷惑をかけてばかりだ。こんなことではだめだ。みんなは、自分に力を貸してくれているんだから。支えられてばかりではだめだ。助けられてばかりでは、だめだ。
「もう大丈夫! ……私、決めてくるね!」
「……ええ!」
 前を向いたサリナに、シスララは微笑みを向ける。サリナは地を蹴った。そして走りながらマナを解放し、陽炎のように揺らめく力を纏った彼女を見て、シスララは安堵の息を吐いた。
「ごめんフェリオ、ありがとう!」
「そんなの後でいい! 倒すぞ!」
「うん!」
 ふたりはジャガーノートと対峙した。巨大機械兵はそこらじゅうから蒸気と煙を上げている。魔物であれば、凄まじい怒りを放出しているような姿だった。
 轟音が上がった。これまでで最も大きな駆動音。ジャガーノートのボディが開く。火炎放射器でもマナ砲でもなかった。大きなひとつの砲台と、それを囲むような無数の小さな砲台。小さな砲台が光を放つ。その光が、大きな砲台に収束していく。
 サリナは走った。フェリオは銃を構えた。
 雷の銃弾が、ジャガーノートの右足を狙う。キャタピラは見る間に破壊された。機械兵はバランスを崩し、右に傾いた。光はまだ止まらない。
 サリナは跳躍した。真紅の風が竜巻となって、ジャガーノートに襲いかかった。
 目視不可能な乱撃が放たれた。ファンロン流武闘術、天の型。遠心力を操った恐るべき速度の連続攻撃が、今まさに攻撃を放とうとしていた、大きな砲台に叩き込まれた。
 凄まじい音を上げて、砲台が破壊された。その衝撃で、ジャガーノートは後方へ倒れた。小さな砲台の光は止まらない。
 鋭い流星が飛んだ。シスララの投擲したオベリスクランスだった。槍はジャガーノートの、細いアームを破壊した。大きな音を立てて、マナを拡散させるシールドが外れる。サリナはそれを鳳龍棍で弾いた。
 シールドを受け取り、フェリオは頭の上に翳した。すぐにサリナが隣に来る。
 巨大機械兵ジャガーノートが、無数の砲門から無数の光線を放った。仰向けに倒れた機械兵の上に、光線は放たれた。そして天井にぶつかり、その多くが反射した。降り注いだ光線が、サリナたちを苦しめた強力な機械兵への、葬送の手向けとなった。