第182話

 ――氷の山の祝宴。荒々しい歓迎の宴。ひとを超えた、猛々しきもの。荒ぶる灼熱の喜びと、閃熱の覚醒。雪と氷に鎖された厳しき山に、新たな希望の炎が灯る――光輝を放つ7人の、絆を信じる者の許に。
 リンドブルムでアーネスから聞いた言葉。サリナはそれを思い出していた。
 ひとを超えた、猛々しきもの。それはイフリートのことだったのだろうか。それとも――ギルガメッシュの、ことだったのだろうか。
 ギル。あの飄々とした強力な武人の姿が、脳裏に蘇る。
 ことが終わった時、ギルの姿はもうどこにも無かった。誰にも目撃されることなく、彼は山を下りたらしい。塵魔のマナや、彼の氣の力を使えば造作も無いことだったのだろう。
 サリナはカインの寂しそうな表情も、同時に思い出していた。あのふたりは旧来の親友であるかのように、仲が良かった。共に過ごした時間はほんの僅かではあったが、互いの力を認め合い、尊敬し合っているように見えた。
 ギル、イフリート、そして氣の力。新たな希望の炎とは、サリナの新しい力のことだろうか。ファンロンの者たちとの修練、イェジンやイフリートとの修行、そしてギルとの戦い。銀華山での様々な出来事が脳裏を駆け抜ける。
 銀華山。あの激しい炎の力を宿した高山は、噴火の後、どうやらその名を変えたらしい。というよりは、はるか昔に持っていた本来の名を取り戻した。
 その名は、金華山といった。
 業火を孕む、金色の華咲く山。イフリートがそのマナを抑制する以前は、そう呼ばれていたのだという。巨大な火山がその力を取り戻し、そのマナは世界に少なからず影響を与えるだろう。
 山周辺の環境も大きく変わる。麓の村であるマリの人々にとっては、しばらくは受難の時となるかもしれない。しかし、とサリナは、あの村のたくましい人々のことを思い返し、胸中でかぶりを振る。雪山観光の旅人が、火山観光の旅人に変わるだけだ。
 拳を握る。金華山での出会いや別れ、そして獲得した力の全てが、その拳の中にぎゅっと収束していくようだった。
 その拳を構え、サリナは目を開いた。
 イフリート。炎の幻獣、瑪瑙の座。炎神と呼ばれ、恐るべき炎のマナを司る強力な神にして、サリナが学ぶファンロン流武闘術の始祖。今は人間の姿を取り、サリナと対峙している。
 約束どおり、イフリートは奥義の稽古をつけてやろうと申し出てくれた。もちろんサリナはそれを快諾し、ふたりはこの修練場へ入ったのだった。
「準備はいいな、サリナ」
「はい!」
 イェジンやギルのことが頭を満たすが、それは今では、サリナの心の炎にくべられる薪のようなものになっていた。あの山での出来事のすべてが、彼女をさらに前進させる力となった。
「気合は十分なようだが、ちょっと気をつけんとな。本気でやったらやばいよな、ここ」
「ですね……」
 ファンロン流総本山の道場やイフリートの御座でのような全力でのぶつかり合いは避けなければならない。サリナとイフリートの力の全てがぶつかったら、とんでもないことになってしまう。
 氣を解放し、ふたりは修行を始めた。

 イフリートとの修練をひと段落させ、サリナは仲間たちが寛いでいるその場所へ向かった。汗を流しに湯を使う前に、もう一度仲間たちの顔を見ておきたかった。
 仲間たち。そう、サリナの仲間たち。これからの旅を共にする、心強く頼もしい者たちだ。
 扉を開け、サリナはその場へ足を踏み入れた。
「サリナ!」
「お、サリナか!」
「修行は終わったの? サリナ!」
「なんだ、休憩か?」
「おお、あねさん! お疲れ様です!」
「サリナ、代わってくれよ……こいつらうるさくてさ」
「サリナ、お茶でも飲む?」
「サリナ!」
「サリナ!」
「サリナ!」
 その面々の顔を見渡し、サリナは笑顔になる。胸にじんわりと温かなものが広がっていくようだった。
「えへへ……」
 そこはロビーと呼ばれる場所だった。セリオルたちをはじめ、総勢30名を超える仲間たちが集まって寛いでいた。笑い声、怒声、はしゃぎ声、悲鳴、たくさんの声が飛び交う、賑やかな場所だ。
「おうサリナ、風呂の場所はもうわかるな?」
 背後から聞こえた声に振り返る。
 大柄で逞しい肉体に、浅黒い肌。そして豊かな、白い髯。工房でハンマーを振るのに相応しい、太い腕。コーヒーが大好きなのに大量の砂糖を入れないと飲むことが出来ないという変わった嗜好を持つ、エリュス・イリア随一の蒸気機関技師にして飛空艇技師。
 フェリオ・スピンフォワードの師、シド・ユリシアスがそこにいた。
「あ、はい、大丈夫です!」
「おう」
 そう、サリナは今、飛空艇に搭乗していた。シドがサリナたちのために建造し、完成させた飛空艇。その名を、“プリマビスタ”といった。
 プリマビスタ。“ひと目惚れ”という意味の込められたその名を、カインは笑った。シドの図体から発生したにしては、随分可愛らしい名だったからだ。
 しかし実際、その空を舞う姿に見惚れない者はいないだろう。純白の巨鳥を思わせる姿は、太陽の光の下で美しく煌く。リンドブルムと似た蔦模様は、サリナたちのマナの光を連想させる虹色だった。見た目によらない繊細なデザインを、シドはサリナたちに誇らしげに語ってみせたのだった。

 金華山の噴火騒動がひと段落し、サリナたちは獅子王の階の広場にいた。モグの話を聞くためだった。サリナが仲間たちに、モグの話を聞かなければと言ったのだった。モグがイフリートの祠で発した言葉を伝えたところ、当然ながら仲間たちは穏やかならざる表情を浮かべた。ファンロン衆は、現れたモグに驚いていた。
「モグ、ゼノアが動いたってどういうこと?」
「クポ〜」
 ふよふよと浮かび、モグは語った。
「モグたちは、がんばってるのクポ〜。サリナたちの役に立つために、エリュス・イリアの各地に仲間たちが散らばってるのクポ〜」
「まあ」
「マジかすげえじゃん!」
 シスララはゆったりと、クロイスは咳き込みそうになって驚きの声を上げた。他の仲間たちも同様だった。
「ありがとう、モグ」
「クポ」
 穏やかな声で礼を述べたセリオルに、モグはこっくりと頷く。頭のぼんぼりが揺れる。
「もしかして、王都にもいるの? モグの仲間が」
 信じられない、という様子でアーネスが訊ねた。王都は今、ゼノアの支配下にある。外部からは立ち入ることすら出来ないはずなのだ。その様子をアーネスたちは推測することすら出来ないでいるが、見張りの者がいるのか、あるいは結界でも張られているのかもしれない。
「そうクポ〜」
 しかしそんなことは、妖精にとってはなんでもないことのようだった。何の苦労も感じさせない声で、モグは続ける。
「王都にはスティルツキンっていうモーグリがいたクポ。スティルツキンが教えてくれたのクポ〜」
「スティルツキン……?」
 そのなんとなくモーグリらしくない響きの名に、サリナは違和感を覚える。もっとも、彼女もモグ以外のモーグリについて詳しいわけではないし、モグがたまたま、非常にモーグリらしい名前だっただけなのかもしれない。
「クポ、スティルツキンクポ〜」
 モグはぱたぱたと羽を動かしている。
「スティルツキンはゼノアを監視していたクポ」
「うわ、危なくないのか?」
 カインが眉根を寄せる。あのゼノアを監視していたなんて、勇気のあるモーグリだ。ゼノアならモーグリを感知しても何の不思議も無いような気がする。
「大丈夫クポ〜。モグたちは見つからないクポ〜」
「だといいけどな……」
 懐疑を拭えないフェリオが呟いたが、モグは気にしないようだった。踊りながら、彼は続けた。
「ゼノアが王都を出たのクポ。ファーティマ大陸に向かってるクポ〜」
「こっちに?」
 不安そうな表情を浮かべるサリナの肩に、セリオルの手が置かれる。振り返ると、しかしセリオル自身も、どこか影を感じさせる顔をしていた。
「モグ、もしやゼノアの進路は、ナッシュラーグへ向いているのではないですか?」
 セリオルはそう訊ねた。サリナは不思議な気がした。兄の言葉は、何か確信めいた響きを帯びていた。
「よくわかったクポ〜。ゼノアは飛空艇で、ナッシュラーグへ向かったみたいクポ〜」
「ナッシュラーグ?」
 地理に疎いクロイスがオウム返しをした。ナッシュラーグ。その名を、サリナは知っていた。というより、このエリュス・イリアに住む者であればほとんどが知っている場所だった。頭の上に疑問符を浮かべるのはクロイスばかりで、他の者たちは一様に、嫌な予感に顔を曇らせている。
「ナッシュラーグ……それは現代のエリュス・イリアにおいては、あまり歓迎されない自治区の名です」
「なんだよそれ、どういうことだよ?」
 セリオルの言葉に、クロイスは敏感にあるものを感じ取っていた。彼はその生い立ちゆえ、偏見や差別というものに対して鋭敏だ。
「まあ、偏見もあるかもしれませんがね……ナッシュラーグ自治区は、ファーティマ大陸の北西部を治める自治区です。ここからはちょうど、ほぼ真西にあたります。そこはかつて、狂皇パスゲアが統治した地。つまりヴァルドー皇国があった場所なんですよ」
 ナッシュラーグはヴァルドー皇国の解体後に建設された街である。大国ヴァルドーから発生した難民たちは住み慣れた地に住居を求め、そこは統一戦争6将軍のひとり、ブラス・フォン・カステルが統治することを条件に、イリアス王国から建設の許可を得た。
 ナッシュラーグはその後、ヴァルドーの色を抜くようにイリアス流の政治が敷かれ、税制が課せられ、教育が施された。ブラスは優れた人物で、住民たちの反感を初めのうちこそ買ったものの、次第にその寛容な政治とおおらかな人柄とで、人々から慕われるようになっていった。
 代が何度か変わっても、カステル一族は優れた統治者であり続けた。それはブラスによる、ヴァルドー皇国――特にパスゲアの子孫が反旗を翻すことを回避することを第一にした教育が、一族に代々受け継がれていったからだった。ブラスは痛感したのだ。戦争の悲惨さ、そして空しさを。もう二度とあのような悲劇を起こしたくない。その思いが、彼の一族を優秀な統治者であり続けさせた。
 しかしある時、不慮の事故によってブラスの子孫の血筋が途絶えてしまった。途方に暮れた当時の領主は、致し方なく養子を迎えた。当時のナッシュラーグで最も優れた頭脳と肉体を持つ、生え抜きの男が養子に選ばれた。出自に何の特徴も持たない彼だったが、養父の亡き後、カステル一族の教えを見事に受け継ぎ、領民は彼を讃えた。
 だが、後に判明したことだったが、彼はパスゲアの血を引く者だったのだ。
 そのことがわかってから、ナッシュラーグは荒れた。既にイリアスの一部として息をしていた領民たちは、パスゲアの子孫が領主であることに反感を覚えるようになった。しかし彼らも理解していた。現在の領主が、その血筋はともかく、優れた統治者であることに変わりはないのだと。カステルの一族のころから、彼らの生活は何も変わらず、イリアス王国からの信任にも一分の揺らぎも無かった。
 時間が経ち、領民たちは渋々と、あるいはそのことを忘れたかのようにして、パスゲアの末裔を領主として認めるようになった。ナッシュラーグは再び、平和な街の姿を取り戻した。
 だがそれこそが、ヴァルドーの一族の狙いだった。
 彼らは巧妙に、そして地道に、かつての栄華を取り戻すべく、地固めをしていたのだ。
 表立って反乱を起こすための理由をことごとくカステル一族に奪われてきたヴァルドー一族は、別の武器を用意することを考えた。それはつまり、領民を味方につけることだ。領民さえ味方にしてしまえば、あとはどうとでもなるだろうと彼らは考えた。つまりイリアス王国への不満を高めてやればいいのだ。そうすれば自然と領民は王国に反感を抱き、ヴァルドー一族の野望を達成しやすくなる。
 かつての栄華を取り戻すという、一族の悲願を。
「――現在、数ある自治区の中で最も鮮明に、王国への敵対心を表明しているのが、ナッシュラーグ自治区なんです」
「……なるほどな」
 セリオルの説明を聞いて、クロイスは納得したようだった。セリオルの言葉には偏見も差別も無く、ただ事実だけがあった。
「そしてナッシュラーグは、ゼノアの故郷です」
「うわ、マジか」
 ゼノアが故郷へ向かったということは、何らかの企てがあるのだろう。王国に刃を向ける可能性がある自治区、ナッシュラーグ。そこへ、現在実際に王国に刃を向けた男が向かっている。しかもそこは、彼の故郷だ。どこからどう考えても、危険な予感しかしなかった。
「……急がないとね、ナッシュラーグに」
 アーネスが言い、仲間たちが頷く。だがただひとり、サリナはすぐには頷かなかった。
「サリナ?」
 沈黙したサリナの顔を、アーネスが覗きこむ。考え込んでいたサリナは、顔を上げた。
「セリオルさん、ナッシュラーグがゼノアの故郷だったら――」
「ええ、そうです」
 サリナの言葉を遮るようにして、セリオルは言った。
「ナッシュラーグは、私の故郷でもあります」
 その言葉は、その場に水を打ったような静けさをもたらした。仲間の誰もが、その事実をどう受け止めていいのかわからなかった。セリオルはセリオルだ。ナッシュラーグの出身だからと言って、彼がイリアス王国に反旗を翻すはずも、ゼノアの側につくことも考えられない。だが動かしがたい、セリオルが謀反の国出身だという事実が、嚥下しにくい乾いた味の無い肉のように、彼らの喉に引っかかるのだった。
 そこに、突如響いた轟音があった。
「なな、なに!?」
 強風が吹いた。上空から叩きつけるような風。突然のことに、サリナたちは混乱した。彼らは空を見上げ、あんぐりと口を開けた。巨大な鳥がいたのだ。
「うおーーーーい、いるかーーーーー!?」
 そしてそこから、シドの声が降ってきた。

 サリナたちはともかく飛空艇に乗り込んだ。ファンロン衆も一緒だった。あまりに急な展開に頭がついていかず、初対面のアーネスたちが挨拶をすることも忘れて呆然としているところに、シドは言った。
「いやあ、お前らを探して世界中を飛び回ってたらよ、行く先々で俺も俺もと手が挙がりやがる。サリナたちを探してるって言ったら、どいつもこいつもついて行くって聞きやしねえ。お前ら一体、世界中で何してやがったんだ?」
 シドは言いながら、ロビーの扉を開けた。そこに集ったメンバーを見て、サリナたちはますます唖然としたのだった。
 フェイロンからはステラ、ユリエ、マリカの3人娘。サリナの親友である3人は、サリナの旅の手伝いをするんだと言って、プリマビスタに最初に搭乗したのだという。危険が伴うからとシドは断ったが、彼女らの目にはプリマビスタの姿が、あらゆる危険を回避する神の遣いのように見えた。この時点で、シドには悪い予感がしていた。
 その予感は的中した。次に向かったユンランでは、あのダグ・ドルジが搭乗を申し出た。戦闘の出来ないステラたちを守るためにも自分の力が必要だろうと、大男はプリマビスタに強引に乗り込んだ。“海原の鯨亭”のマスターは、恩人のために力を使いたいと嘆願する従業員に、笑って許可を出した。俺の分も働いて来い、と言って。
 リプトバーグでは、マリー・ビッテンフェルトが搭乗を希望した。チョコボ厩舎の娘である彼女は、サリナたちのチョコボの世話を誰がするのか考えているかとシドを問い詰め、たじろがせて搭乗権を獲得した。その後、シドは今もたぶんハロルドがチョコボたちの世話をしているはずだと思い至ったが、後の祭りだった。
 森林の街クロフィールでは、思いがけず大勢を乗せることになってしまった。その時点で既に想定外の乗員増加を受け、食事や寝床の準備が大変なことになっていた。そこに目を付けたのが、コンスタンス、マシュー、ティムのアップルトン一家だった。宿屋を経営するプロである自分たちが乗れば、今後どれだけ乗員が増えても大丈夫だと、彼らは太鼓判を押した。シドもこれには、折れざるをえなかった。
 さらに、武具店を経営するスウィングライン家もついてきた。美人な母クリスティナと娘イーグレット、それにいかつい容貌の店主ガンツにやんちゃな息子のアルト。サリナたちの武具をサポートするには自分たちがいなければ始まらないと、彼らは主張した。確かに旅に帯同してくれる専門の武具屋がいれば便利だろうと、シドは渋々首を縦に振った。何せガンツは鍛冶屋でもある。仕入れをしなくても、材料があれば武具を生み出すことが出来るのだ。
 鉱山の麓にひっそりと広がる村、アイゼンベルク。カインとフェリオの従兄弟であるクライヴは一も二も無く搭乗を申し入れた。彼が口にしたもっともらしい理由は、鍛冶屋がいても材料を調達出来ないと意味が無いだろ、だった。確かにその通りだった。
 享楽の街アクアボルトと、雲霞の村フォグクラウド。最近随分と仲良くなったらしい街と村を擁するアクアボルト自治区では、幻獣研究所の名誉教授という肩書きを利用して面会した領主サンク・フォン・グラナドから格別の申し出があった。アクアボルトに店を構えるシモンという服飾職人を同行させてほしいと言うのだ。すぐに召喚されたシモンは、シドの目的をするとあっという間に身支度を整え、さらにフォグクラウドへ彼を案内した。雲霞の村では族長を名乗るレオンという青年と、その弟分だというセリノという少年が、さらに同行を申し出た。疲れと混乱で参っていたシドは、なし崩し的にそれを認めた。
 砂漠の地下に広がる竜脈の街、ローラン。アクアボルトと同じ手を使って領主クレメンテに面会したシドは、その娘アリスと妻クラリタから、一方的な詰問を受けてたじろいだ。アリスからはサリナたちは無事なのか、クラリタからはセリオルと連絡が取れないかと物凄い勢いで言われ、当然返答するに適う言葉を持ち合わせず、強引にふたりの搭乗を認可させられた。
 山岳の街ドノ・フィウメでは手荒い歓迎を受けた。プリマビスタの接近を敵襲と勘違いした聖竜の一族が、迎撃のために空へ上がってきたのだ。敵意が無いことを示すためにサリナたちを探しているという目的を告げると、竜たちはあっさりと引き下がった。のみならず、信じられないことに聖竜一族の長であるという、ファ・ラクと名乗る竜が帯同を申し出たのだ。なんでもサリナたち一行には彼らの王が随行している――シドにはとても信じられなかったが――らしく、その王が乗ることになる艇であれば彼が守らないわけにはいかないと言うのだった。
 さらにドノ・フィウメの住民の中からも、搭乗を希望する者が出た。アンリとライラのガラス職人師弟コンビだった。彼らはこう言った。いかに武具を充実させることの出来る仲間がいても、魔法的な守りや力を与えることが出来るアクセサリを製作出来る者がいなければ仕方がない、と。そういうものかと思いつつ、半ば押し切られるようにシドは折れた。正直、もうここまで来たらあと何人増えようがどうでもいいと彼は思っていた。
 かくして飛空艇プリマビスタはエリュス・イリア各地に立ち寄るたびに大掛かりな改造工事――鍛冶やら裁縫やら硝子細工やらのための部屋などの追加――を強いられ、ようやくサリナたちに追いつくことが叶ったのだった。
 そして当然のような顔をして、ルァン、フーヤ、ユンファの3人も乗り込んだのだった。
 ロビーには、サリナたちの仲間――これからのさらに激化していくであろう旅を支えてくれる、仲間たちの顔があった。シドから愚痴に近い説明を受け、久方ぶりに顔を合わせて挨拶の言葉を寄越してくれる彼らに笑顔で応え、サリナは心が喜びで満たされるのを感じたのだった。
 そして彼女は言った。大きな声で、満面の笑顔で。
「みんな、これからもよろしくね!」
 集まった仲間たちから、喝采の声が上がった。