第194話

 ナッシュラーグの空を舞う黒き魔物が、純白の光線によって滅ぼされていく。白き聖なる竜の戦士、ファ・ラクのブレスが闇の魔物を浄化した。
 スペクタクルズ・フライが運んできた切迫した様子のカインの言葉を聞いて、ファ・ラクたちはすぐにナッシュラーグへ向かった。風車の都全体に出現した魔物の殲滅のため、戦力がほしいとのことだった。
 ファ・ラクは街の至るところから感じられた強い魔物の気配を頼りに、プリマビスタの戦闘員たちを降ろしていった。そして彼自身は、次々に黒い穴から出現する魔物たちを、片っ端から殲滅しているのである。
「しかし、ゼノアという人間……恐るべき者だ」
 次の魔物のところへ飛びながら、ファ・ラクは独りごちる。
「これほどの数の魔物……一体、どれほどの力があれば呼び出すことが出来るのか」

 悪臭が晴れ、シスララは髪を払った。
 モルボルはその触手を幾本も斬られ、竜騎士の槍に貫かれて絶命した。そのひどい臭いの息も、吸い込まなければどうということも無い。シスララとソレイユの縦横無尽の攻撃の前に、モルボルは触手を振り回して対抗したものの、敢え無く散った。
「ふう……ソレイユ、大丈夫? 吸っていない?」
 主の問いかけに小さく啼いて答え、ソレイユは翼を畳んだ。シスララの肩に乗る。
「さあ、皆さんと合流しましょう」
 そう言ってモルボルに背を向けかけた時だった。
 ごう、と音がしたような気がして、シスララは素早く振り返った。同時に槍を構える。ソレイユはすでに肩から離れ、空中で臨戦態勢を取っていた。
 黒い光のようなものが、モルボルを包んでいた。亡骸だったはずのその緑色の身体が、ところどころ黒に染まっていく。そしてその直後、魔物は無造作に起き上がった。
「闇のマナ?」
 油断無くモルボルを見据え、竜騎士は呟く。ハイドライトでの戦いが連想された。あまり気分の良い戦いではなかった。その苦い印象に顔をしかめつつ、敵の様子を窺う。
 何の予備動作も無く、モルボルの触手が飛んで来た。
 考えるより前に身体が反応していた。横っ飛びに跳躍し、その鞭のような触手をかわす。ついさっきまでとは段違いのスピードだった。
「ソレイユ!」
 飛竜に命じる。空色の竜は甲高く啼き、翼による攻撃を果敢に繰り出した。だが、当たらない。さきほどまでとは別物の動きで、モルボルは飛竜の攻撃を回避していく。
 そしてソレイユが見せたほんの僅かな隙を突いて、魔物は触手を伸ばした。
 しかしそれは飛竜に到達する前に、天空より舞い降りた流星によって切断された。
 シスララのジャンプをまともに受けた触手は千切れ飛び、モルボルは悲鳴を上げる。
 ここが好機とばかり、竜騎士と飛竜は猛攻を仕掛けた。
 それが悪手だった。
 素早い攻撃で攻め立てるシスララとソレイユを、モルボルは紙一重で回避していった。攻撃が当たらないことによる苛立ちが、竜騎士と飛竜を蝕んでいく。
 やがて業を煮やしたソレイユが、高速だが大振りの体当たりを仕掛けた。
「だめ、ソレイユ!」
 シスララの制止は、1歩遅かった。ソレイユはすでに急降下に入り、そしてすぐにモルボルの眼前に迫った。それが魔物の狙いだと気づいた時には、遅かった。ソレイユを助けようと飛び出したシスララもろとも、闇に侵食された悪臭の魔物が放つ、最悪の状態異常攻撃――“臭い息”の餌食となってしまった。
「きゃっ!?」
 吹き付けられた毒々しい紫色の靄。回避することが出来ず、シスララはそれを吸い込んでしまった。
 効果は、てきめんだった。
 全身を襲う虚脱感に、膝から下の力が抜ける。何が起きたのかわからず、シスララは混乱した。
 視界が悪い。身体が痺れて動かない。マナを感じ取れない。呼吸が苦しく、全身に痛みがある。そしてなぜか、ものすごく眠い。
「ソレ……イ、ユ……?」
 混乱する頭で、ひとまず相棒の飛竜の状態を確認しなければと思い、シスララはソレイユの姿を探した。目がよく見えない。かろうじてぼんやりとした空色の姿を発見し、必死で動かない腕を伸ばす。ぴくりとも動かないソレイユは、どうやら眠ってしまったようだ。
 早鐘のように、心臓が鳴る。魔物はどこだ。視界が悪く、マナも感じられない。自分が槍を持っているのかどうかすら、はっきりと認識出来ない。焦燥感に頭がおかしくなりそうだった。
 そんなシスララに、モルボルはゆっくりと近づいた。魔物にそれほど複雑な感情があるはずは無いが、その動きはまるで、捕らえた小動物をじっくりいたぶろうとする、残酷な子どものようだった。
 無数の触手が、一斉に上げられる。1本1本がシスララの腕ほどもある触手だ。その叩きつける威力は、美しき竜騎士の華奢な背骨など、いとも容易く砕いてしまうだろう。
 持ち上げた触手をゆらゆらさせながら、モルボルは地に這いつくばったままのシスララとソレイユに襲いかかる。
 絶望感に浸かりながら、シスララはそれを見ていた。いや、はっきりとは見えない。だが何かおぞましい姿のものが自分に近づいて、その長い触手を振り上げていることはわかった。わかっているのに、身体が動かない。抗いがたい眠気に、意識が飛びそうになる。
 モルボルの触手が、振り下ろされる。
 動かない頭で、シスララはそれを見ていた。心臓のあたりが痛い。眠気がひどい。もうこのまま、眠ってしまおうか――シスララは、目を閉じた。
「どっせいっ!」
 鼓膜を震わせるその声に、シスララの目が開く。凄まじい衝撃に地面が震えるのがわかった。同時に、何か大きな衝撃音が聞こえた。
 痺れたままの身体が浮くのを感じた。誰かが起こしてくれたらしい。ぼんやりと開いたままの口に、何かが流し込まれた。反射的に飲み込み、シスララは咳き込んだ。
「おお、大丈夫かね!?」
 慌てた声の主の姿が、シスララの視界の中で急速に像を結んでいく。頭にかかっていた靄が晴れ、脳が稼動し始めるのがわかった。心臓の痛みが消え、全身の痺れも取れていた。睡魔もどこかへ去ったようだ。
「は、はい……大丈夫です」
「おお、それは良かった! 特製の万能薬だ。さぞ苦かったろう! わっはっは!」
「お恥ずかしいです」
 見ると、ソレイユも気まずそうな様子で浮き上がっていた。小さな声で啼く。
 シスララは、救援に駆けつけてくれたらしい長大な槍を携えたその男――ファンロン流武闘術総本山で豪牛の階を守護する師範代、フーヤの巨体を見上げた。
 ファンロン流の武道着にその身を包んだ、筋骨隆々の大男。サリナとも激闘を繰り広げた実力者だ。心強い味方が、来てくれた。
「大変助かりました、フーヤさん。ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げるシスララに、フーヤは笑って応じる。
「わっはっは! なんのなんの! それよりほれ、起きたようだぞ」
「はい」
 言いながら、シスララは扇を取り出した。仕切り直しに相応しいマナの舞で、戦力増強を図るのだ。
「花天の舞・セーバージグ!」
 マナの光が飛び、シスララ、ソレイユ、フーヤの3者に力を与える。攻撃の命中率を高める舞だ。
「もう、油断はいたしません!」
「ムッフッフ。その意気だ!」
 ソレイユが甲高い声で啼き、気勢を上げる。
 しかしその直後、彼らの表情は固まってしまった。
「……おいおいおいおい、マジかね」
「真面目なよう、ですね……」
 起き上がったモルボルは、どういうわけか、3体に増えていた。

 闇のマナを帯びた鉄巨人に、クロイスは手を焼いていた。
 渾身の一撃で、腹に風穴を開けてやった。しかし闇のマナは鉄巨人を強化している。立ち上がった魔物は、腹の傷をすぐに修復してしまった。
 舌打ちをして、クロイスは盗賊刀を構える。
「めんどくせえやつだな、くそ」
 一度倒した鉄巨人が闇のマナを帯びて復活したのにも驚いたが、それ以上に驚いたのはその能力の向上ぶりだ。
 鉄巨人の性質は見た目のままで、動きが鈍く、しかし身体は頑強で力が強い。要するに力任せの攻撃で相手をねじ伏せるのが得意な魔物だ。
 だが闇のマナを得た鉄巨人は、素早さと修復能力を手に入れていた。よほど強烈な一撃を与えるか、修復の暇を与えない連続攻撃で殲滅するか。しかもそれを、素早くなった鉄巨人以上のスピードで懐に飛び込み、実行しなければならない。
「ちっ……」
 正直、手をこまねいていた。
 クロイスの出せる最大火力は、アシミレイト時を除けば、裏技の不意打ちやだまし討ちだ。だがこうも面と向かって戦っていると、彼の得意とする不意からの一撃は与えられない。それ以外の手段で地道に攻撃するしかないわけだが、今の鉄巨人を易々と撃破出来るだけの体力が、彼には足りなかった。
 途中で息切れしてしまうのである。
 加えて、こちらのマナは有限だ。永遠に強力な攻撃を繰り返すことは出来ない。
 そんな中、鉄巨人にもやはり、モルボルと同じことが起こった。
「……冗談だろ」
 いつの間にか、3体に増えている。分裂したわけでも、新たに黒い穴から出現したわけでもない。まるで元々は1体に重なっていたのがひょいと顔を出しただけででもあるかのように、2体目と3体目の鉄巨人がそこにいた。しかも3体とも、闇のマナをしっかり帯びている。
「こりゃ、ちょっとやべえな」
 3体の鉄巨人がおもむろに突進してきた。
「くっ!」
 巨大な剣の乱舞に、たまらずクロイスは後方へ跳ぶ。魔物の剣は周囲の破壊を厭わず、民家や道路が被害を受ける。反射的にクロイスはその状態を確認し、そしてそれを発見した。
「ウソだろ!?」
 破壊された民家の陰。今にも瓦礫に埋まりそうなそこに、幼い少女がいた。
「くそ! ふざけんなよ!」
 魔物に背を向ける。少女の許へ急ぐ。剣が振られる音がする。かろうじてその刃は、クロイスの背中に届かない。
 少女は、恐怖に立ち竦んでいた。クロイスが来ても鉄巨人にじっと視線を向け、動かない。
「おい! おい、おい! 聞こえてんだろ、おい!」
 息が切れるのも構わず、少女の肩を掴んで揺さぶる。途端、少女は火が点いたように泣き出した。
「あーーーー、もう!」
 それ以外の方法が思いつかず、クロイスは少女を抱え上げた。鉄巨人が背後から迫る状況で彼女を助けるには、強制的に移動させるしかなかった。マナ変異症が進行していたのか、身長の割りに軽い。
 だが当然、魔物たちがクロイスのそんな事情を斟酌してくれるはずは無かった。
 いつものスピードを出せないクロイスが追い詰められるまで、さほどの時間はかからなかった。
「くそ……」
 自分にしがみついて泣く少女を、ひとまず脇に立たせる。退路は無い。こうなったら、残る手はひとつだ。
 クロイスは、リストレインを取り出し――
「クロイスさん、それはまだ早いんじゃないですか?」
 その声は上から聞こえた。それがなぜかをクロイスが理解するより早く、声の主は降り立った。
 と同時に、鉄巨人の1体を吹き飛ばした。
「あ、あんた……」
 ひらりと、武道着の裾が揺れる。軽やかに着地した彼は、半身でこちらを振り返り、微笑んで見せた。
「その力は、この後に取っておいてください」
「あんた、ルァン!」
「はい。馳せ参じましたよ」
 クロイスの胸に安堵感が広がる。ルァンの強さは、彼も自分の目で見てよくわかっていた。あのサリナと徒手で互角以上に渡り合うのだから。
 そのルァンは、細身の直剣を腰に提げていた。これまでにあまり見たことの無い型だ。ファンロン流独自の剣かもしれない。
 ともあれ、クロイスの取るべき行動はひとつだった。
「わりい、ほんのちょっとだけここ、任していいか?」
「ええ、もちろん」
「助かる!」
 ルァンが作ってくれた隙を突いて、少女を安全な場所に避難させることだ。

 フェリオ、アーネス、カインの3人も、それぞれに相手をしていた魔物を討伐し、シスララやクロイスの場合と同じように、闇のマナに侵食された魔物に手を焼いていた。
「う……ぐ……・?」
 闇に侵されたマインドフレアは、フェリオが銃を組み替える一瞬の隙を見逃さず、その攻撃を放った。人間で言えば腕や脚にあたる触手を大きく伸ばし、放電に似た現象を起こしたのだ。
“マインドブラスト”。魔導師たちの間でそう呼ばれ、恐れられる攻撃である。
 その効果は、信じがたいことではあるが、対象の思考能力を奪うというものだ。それは知性によって魔力を制御する魔導師にとって最大の脅威であり、また優れた頭脳を回転させて戦うフェリオにとっても、同様だった。
「な、なんだ……? 考えが、まとまらない……」
 次の手が思いつかない。攻撃すべきか、逃げるべきか、判断がつかない。自分の脳が自分の意思のとおりに動かないという初めての感覚に、フェリオは戦慄する。じわりじわりと近づいてくる魔物を、フェリオはただぼんやりと見ていた。しかも烏賊の化け物は、いつの間にか3体に増えている。
「……え?」
 そして同じく、どこから現れたのかわからない影があった。影は音も立てない足運びで急速にマインドフレアの一体に接近し、魔物がその事実を認識するよりも前に、マインドブラストを放った触手をまとめて斬り飛ばした。
 纏った衣の裾をはためかせ、アイユーヴの若き戦士長、セリノ・ファレスは武器を敵に向け、背後のフェリオに向かって言った。
「奪われた知性は戻ったはずです、フェリオさん。反撃といきましょう」
 その手にあるのは片刃の剣――戦士たちの間では、刀と呼ばれる独特の武器だった。

 クァールという魔物の特徴を述べるなら、まずその優美な姿だろう。猫科の大型動物を思わせる斑入りのしなやかな肢体に、髭というよりは触角、あるいは頬から生えたもう1対の腕のように自由に動く、鞭のような器官。爪、牙、そしてその髭。武器を多く持ち、そして見た目どおり、素早い。
 だがその攻撃力の高さや素早さよりもなお、旅人がこの魔物と遭遇した際に気をつけなければならないことがある。
 それは、攻撃しないこと。
 攻撃すれば必ず、反撃があるのだ。それも、ただの反撃ではない。その双眸から放たれる、発光による攻撃。“ブラスター”と呼ばれ、それを受けた者は完全なる麻痺状態、つまり一切の身動きが取れない状態に陥る。
「来たれ水の風水術、濃霧の力!」
 だがそれも、美しい鐘の音と共にもたらされる視界を奪う霧の前では、無力だった。アーネスは風水術でブラスターを防ぎつつ、怯んだクァールを着実に攻撃し、勝利を収めたのだった。
 だが――
「くっ……」
 闇の力を得、3体に増えたクァールの攻撃は執拗だった。こちらから攻撃すれば、その全てにブラスターが返ってくる。素早い足運びと濃霧の風水術で幾度かはかわしたものの、ついにアーネスは、その魔の光の虜となってしまった。
 そんな彼女を救ったのは、一陣の旋風だった。
 つむじ風は1対の双剣によってもたらされた。目を攻撃されたクァールが悲鳴を上げてのけぞる。
「よぉ、アーネス。平気かい?」
「アリス!」
 以前見た時とは異なる双剣を、アリスは携えていた。ローランの砂漠を想起させる、たおやかな剣。

「けっ……やれやれだ、ぜ……」
 脇腹を押さえ、カインは毒づいた。
 トンベリの包丁による攻撃のほとんどを、カインは防いだ。トンベリは小柄だが、その俊敏性はほぼゼロと言っても過言ではない。ゆっくりと近づき、こちらが警戒する前にその手の包丁でざくっとひと突き。それがこの魔物の攻撃である。
 当然、トンベリのことを知っている者にとっては、そんな攻撃を回避することは容易い。
 そのはずだった。
「こいつが、呪いってやつか……」
 トンベリが恐れられるのは、その呪いの力によるところが大きい。これまで撃破した魔物の数だけの呪いが詰め込まれた“みんなのうらみ”がその最たるものだが、それ以外にもこの魔物が操る呪いの力があった。
 それが、敵を金縛り状態にしてしまう力だ。ランタンの妖しい光が、その力の源だった。
 金縛りにかけられ、身動きが取れず、しかし意識も視界もクリアなまま、ゆっくりと近づいてきて差し出される包丁に刺される――想像するだけで背筋の凍る恐怖である。
 闇の力を得て、いつの間にか3体に増えていたトンベリのうちの1体が、死角からカインの脇腹を攻撃した。まさか数が増えているとは思わなかったカインは不意打ちを食らい、そして今、彼はトンベリの呪いによって身動きを奪われたのだった。こうなっては獣ノ箱もストリングも使えない。
「ちっ……」
 目の前から、じわじわとトンベリたちが近づいてくる。その手の包丁は凶悪な光を放っている。じんわりと嫌な汗が背中を伝う。アシミレイトも出来ない。このままじゃ、まずい――
「なんだ、情けない恰好だな」
 その言葉と共に、大振りな一閃がトンベリのランタンを破壊した。
 驚いたカインは、その声の主を見て目を見開いた。
「あ、あんた……レオン!」
 アイユーヴの元戦士長にして現村長、レオン・ブラシエールは、セリノと同じ刀を帯びていた。
「俺を殴り飛ばした時のお前の力は、大したものだったはずだがな?」

 飛空艇プリマビスタのロビーでは、残ったメンバーが相談を始めていた。その中にはモグもいる。そしてもう1匹、モーグリがいた。いざという時にサリナたちがすぐにここへ戻ってこられるよう、モグテレポ要員としてモグが呼んできた、モントスだ。
 カインのスペクタクルズ・フライが緊急事態を知らせに来た直後から、搭乗メンバーは動き始めていた。
 サリナたちと戦闘要員であるルァンたち、その全員の戦力アップのために、自分たちに出来ることがまだまだあるはずだ、と。全員がロビーに集まり、ロビーの中で武具屋や宿屋などの担当別に別れて話し合いをしていた。基本的には、これまで以上に質の高い協力をしていくための方針立てだ。
 それがひと段落したころ、ステラがふと呟いた。
「大丈夫かな……みんな」
 それを耳ざとく聞きつけ、笑い飛ばしたのはガンツだ。スウィングライン武具店の店長にして鍛冶師であるガンツは、豪快に笑ってみせてから言った。
「なあに心配はいらねえ! この俺が腕によりぃかけて造った武具を、全員に持たせたんじゃ。あいつら軒並み、大幅パワーアップってやつじゃかんのう! がっはっは! がっはっはっは!」
「お父さん、うるさいよ……」
 娘のイーグレットが、うんざりした声を出した。