第195話

 巨大な戦斧の一撃が、目玉の悪魔を真っ二つに両断した。
 旋風を巻き起こし、悪魔をなぎ倒した戦斧が、ズンと音を立てて地面を打つ。
「助かりました」
 上級黒魔法を連発して、魔力が底を尽きかけていたところだった。倒しても倒しても力を増して起き上がってくる3体のアーリマンに手を焼いていたセリオルの許へ駆けつけたのは、戦斧をその手に握った大男、ダグ・ドルジだった。
 感謝の言葉にセリオルを見遣ったダグの顔は、誇らしげだった。
「こんなの、俺が皆さんから受けた恩に比べりゃあ、なんてことないですぜ!」
 しかしそう言って意気揚々としていられるのも、僅かな間だけだった。残る2体のアーリマンは未だ健在で、ふたりに襲いかかる準備も万端だったからだ。
 滑空と同時に瞳の妖しい光でこちらの動きを阻もうとしてくるアーリマンの攻撃を回避しながら、セリオルはマナを練る。まずは回復が先決だ。吸魔の魔法でアーリマンからマナを奪わなくてはならない。
 そのための呪文を唱えながら、セリオルは考えていた。
 さきほどの業火の魔法。炎の上級黒魔法、ファイガの威力によって、アーリマンは確かに息絶えたはずだった。それが恐らく闇のマナの影響か、すぐに復活した。そして更に、追い詰められたアーリマンはそこから、3体に増えたのだ。
 いや、正確には、増えたように見えた。
 つまり、とセリオルは脳内を整理する。増えたように見えたのは、恐らく錯覚だろう。いかに闇のマナと言えど、そう簡単に生命を生み出すことは出来ないはずだ。あるいは魔物を瞬時に複製するということも不可能なはずだった。
 ゼノアの軍勢の力の源は、闇のマナだ。彼に加担する闇の幻獣たちの力、それが今起きている現象の根幹にあるはずだった。
 闇のマナの力、インフリンジ。闇のマナの特性である“侵食”を応用したマナ技術だ。闇による侵食は魔物を凶暴化させる。黒き魔物たちは闇に侵食された者たちであり、彼らが出現するあの黒い穴も、インフリンジの力で空間を侵食して生み出されたものだ。ハイドライトでゼノアが使った移動装置、デジョンも同様の技術で動いていた。
 それらの事実から推察される可能性はひとつ。闇のアーリマンが2体増えたのは、インフリンジの力で追加召喚されたからだ。
 どうということも無い種明かし。腹立たしいのは、そのことに考えが辿り着くまでに時間を要してしまったことだ。実際、アーリマンが3体になった時、セリオルは混乱した。そして恐らくはそれが、ゼノアの狙いなのだろう。混乱させ、かき乱し、戦局を弄くって時間を稼いでいるのだ。
「天翔ける雷来たりて鼓打て。祭囃子の笛の音、破壊の鉄槌舞い踊れ――サンダガ!」
 マナによって生み出された極太の雷撃が、アーリマンを打ち据える。轟雷の魔法、サンダガ。雷の上級黒魔法によって、闇に侵されしアーリマンは墜落した。
 そうして魔物を撃破しながらも、セリオルは考察している。
 この襲撃の意味。手ごわい魔物を放って時間を稼ごうとする理由は何なのか。自らの故郷を蹂躙してまで強行したこの戦争の、その裏に隠されたゼノアの真意。
「ぬぅん!」
 野太い気合の声と共に、ダグは残る1体のアーリマンを撃破した。翼を破壊され、地に落ちたアーリマンにはもはや、雄たけびを轟かせる戦斧から逃れる術は無かった。
 その斧を、セリオルは見た。元々人間離れした戦闘能力を持っていたダグだが、その力が更に高められたのは、彼の持つその武器によるところが大きいようだ。ダグの背丈とほぼ同じ長さの戦斧。ガンツがダグのために打ったひと振りなのだろう。
「こんなキレイな場所を墓に出来るんだ。ありがたく思うんだなあ!」
 そう言って豪快に笑うダグの背中が、セリオルには頼もしく映る。これまでリバレーターの7人だけで戦ってきたが、ダグたち背中を任せることの出来る仲間がついてくれるようになったことが、本当に心強い。
「そうですよね、セリオルさん!」
 巨体を誇るダグの人懐っこい笑顔に苦笑しながら、セリオルは頷いた。
 ――その時、彼の脳に閃光が走った。
 それは、ダグが発した言葉だった。セリオルの頭の中で、ひとつの推測が急速に形を成していく。その推測に対するいくつもの仮説と否定が、めまぐるしい攻防を重ねる。だが何をどう考えてみても、生まれた推測を崩し切ることは出来なかった。
 ――こんなキレイな場所を墓場に出来るんだ――
「フライ、すぐにサリナに連絡を!」
 カインの連絡用の虫、スペクタクルズ・フライに、セリオルは命じる。その慌てた様子に、ダグは面食らって動きを止めた。
 セリオルはスペクタクルズ・フライに、素早く内容を伝えた。サリナの力が必要だ。
 だがその時、指示を出すセリオルの前に、巨大な丸い影が降り立った。
「くっ……!」
「野郎、何匹出てきやがるんだ!」
 急いで戦斧を構え、ダグが吠える。
 目玉の悪魔、アーリマン。闇に侵食された魔物の数は、5体に増えていた。
「フライ、指示内容を変更します。まずはサリナにさっきの内容を伝えてください。そしてすぐ、シスララと上空のファ・ラクのところへ行ってください」
 足止めされている場合ではない。このまま際限無く湧き続ける魔物の相手はしていられない。
 闇のマナを完全に消し去ることが出来るのは、その対極にある聖のマナだ。聖の幻獣と聖なる竜の力で、闇の“侵食”を“浄化”しなければならない。セリオルたちの状況が見えるどこか――恐らく上空の黒い穴のどれかに、ゼノアの眼となっているものが潜んでいるはずだ。だからインフリンジの力が、これほど的確に働くのだ。
 それを破壊、もしくは撃破し、この煩わしい状況を解消しなければならない。

 陸亀、アダマンタイマイ。決して小規模ではないナッシュラーグの憲兵団を警戒させるのに、この魔物が1体いれば十分だという。
 
その巨大な体躯は鋭く太い棘状に発達した甲殻に覆われ、その巨大で分厚い甲羅は岩山の岩盤を思わせる。尋常でなく頑丈なその巨体に加え、アダマンタイマイは恐るべきスピードを誇る。
 物体を破壊するための衝突エネルギーは、動く物体の質量と速度に比例する。質量の小さい物体も高速で衝突すれば大きな破壊を生み、逆に質量の大きな物体でも、ゆっくりと衝突すれば破壊は生まれない。
 アダマンタイマイは質量と速度、その両方を兼ね備えた怪物だった。性格は温厚だが、ひとたび暴れ始めると手が付けられなくなる嵐のような魔物。遭遇を避けるのが大前提。万が一遭遇してしまったら、気づかれないうちに退避すべし。それがナッシュラーグ憲兵団に義務付けられた行動だった。
 サリナとユンファはその巨大な亀を3体も同時に相手にしていた。銀華山を発ってからの修行で、ユンファは氣の力を身に付けていた。その薄黄色の光を纏ったトンファーは強烈な威力を発揮し、陸亀の頑強な甲殻を破壊した。背後でのその激しい戦闘を目の端に捉える度、フランツは呆然としそうになるのを堪えなければならなかった。
 とんでもない少女たちだ――
 やや苦戦しながらも3体の闇に侵された陸亀を撃破したふたりに、フランツは喝采を上げた。
 だが。
「そんな……何体出てくるの!?」
 肩で息をするユンファの前に立ちはだかった影は、今度は5つだった。
 闇に侵されし巨大な5体の陸亀。サリナもユンファも、陸亀よりもはるかに素早い。魔物の素早さもその巨体にしては大したものだが、やはり体重の違いはどうにもならなかった。だからふたりは、この強大な魔物を相手にしても有利に戦うことが出来たのだ。
「何体出てきても同じだよ。早く倒して、みんなのところにも行かないと!」
 しかしその優位も、相手の数が多くなれば続かない。同時に視界に捉えていなかればならない相手が多いと、その分集中力が分散させられる。敵の攻撃を回避出来ているうちは良いが――
「ううっ……!」
 死角からの尾の薙ぎ払いを受けてしまったユンファは、為す術も無く木の幹に叩き付けられた。意識が飛びそうなほどの衝撃に、肺の空気が全て出ていく。すぐに呼吸を再開することが出来ず、ユンファは暗くなる視界の中、奥歯を噛み締めてなんとか転倒することだけは回避した。
「ユンファ!」
 そしてそのユンファを案じて首を回したサリナにも、隙が出来てしまった。
「うぐっ!」
 ほんの一瞬で距離を大きく詰められ、サリナの胴に強烈な頭突きが入った。迂闊だった。防御の魔法の効果が切れてしまっている。サリナの細い身体は宙を舞い、その自由を奪われる。
「まずいっ!」
 氣の力を解放し、サリナは空中を蹴って姿勢を制御する。同時にユンファの姿を探す。プラナを使っているので、マナが使えない。ダメージは大きいが、態勢を立て直さないと回復の魔法は詠唱出来ない。
 ユンファは必死に呼吸を整えていた。追撃を受けてしまうのは避けなければならない。言うことを聞きたがらない脚をなんとか制御して地面を蹴る。
 空を蹴ったサリナと地を蹴ったユンファ、ふたつの閃光が煌き、アダマンタイマイの巨体に流星となって激突した。
 ユンファのトンファーが炸裂したのは陸亀の足だった。氣の力が生む破壊が、頑丈な甲殻に覆われた足を傷めつける。
 姿勢が崩れたところに、サリナの棍による一撃が叩き込まれた。薄黄色のまばゆい光と火花が散り、アダマンタイマイの分厚く、岩盤状に発達した甲羅に深い亀裂が入った。衝撃は甲羅の内側まで伝わり、陸亀の筋肉と内臓にダメージを与えた。
 しかし安心するのはまだ早かった。
 深く割れた甲羅の上に着地したサリナの背後から、別の陸亀の尾が唸りを上げて迫っていた。それに気づいたサリナは素早く鳳龍棍を立てて防御の構えを取った。
 ユンファのほうにも別のアダマンタイマイによる攻撃が仕掛けられた。巨大な足による踏み付けだ。まともに受けてはひとたまりも無い。ユンファは脚に力を込め、その場から素早く離れた。
 サリナもユンファも、それぞれに迫った攻撃を防御、あるいは回避した。問題は無かった。アダマンタイマイは巨体の割りに素早いが、とはいっても彼女たちのスピードに追い付けるものではなかった。
 だが問題は、やはり相手の数だった。
 攻撃を免れて再び攻勢に転じようとしたふたりの眼前に、別の陸亀による攻撃が既に迫っていた。
「うわっ!」
「ううっ!」
 巨体から繰り出される激しい一撃に、ふたりは軽々と宙を舞った。氣の力を使い、空中で姿勢制御をする。そこにさらなる追撃が行われた。耳をつんざく巨大な咆哮と、素早い体当たりだ。
「ユンファ!」
「うん!」
 棍を縦に構えて備えるサリナの背後に、ユンファが入った。ふたりで力を合わせて衝撃を逃がす算段だ。防御は成功し、受けるはずだったダメージは軽減された。
 だがそれでも、ふたりの身体にのしかかる痛手は相当なものだった。呼吸が一時的に止まるほどの衝撃に、サリナは声も出ない。
 かろうじて着地する。すぐに体勢を立て直そうとするが、上手くいかない。その間にも、4体の闇に侵されし陸亀が迫ってくる。
「天空の守りの盾を授からん――プロテス!」
 プラナからマナに切り替え、切れる呼吸を整えて、サリナは防御の魔法を詠唱した。白い光に包まれ、サリナとユンファの防御力が向上する。
「ありがと、サリナ」
「うん……」
 アダマンタイマイ5体。撃破したと思った1体も、ふらつきながらも起き上がった。額から汗が落ちる。焦燥が募る。
「ま、まずいぞ……」
 黒い魔物を相手になんとか無事の立ち回りを演じるフランツは、サリナたちの危機に気づいていた。同時に彼は、他の場所で同じように戦っているはずのサリナの仲間たちのことも案じた。同程度の強さの――アダマンタイマイほどの強力な魔物はそう多くないが――魔物たちが街の各地に出現し、セリオルたちもおそらく分散して対応しているはずだ。サリナがひとりでここにいるのがその証拠だろう。
 とはいえ、サリナたちにはあの幻獣の力がある。そういう意味では敗北する可能性は無いだろうが――
「けっこうきついね、5体もいるとさ……」
 地響きを立てて迫る陸亀たちの影に、ユンファの口から弱音が漏れる。
「うん……でもここでアシミレイトを使うわけにもいかないし……」
 間違いなく、ゼノアがどこかにいるのだ。おそらく黒騎士もいるだろう。こんなただの魔物相手に、幻獣のマナを消費するわけにはいかない。リバレートを使わなくとも、アシミレイト状態で戦うだけで幻獣のマナは徐々に減ってしまうのだから。
「でも……このままじゃ、やばいよ」
 ユンファの言うとおりだ。1体なら相手にもならない魔物でも、5体が連携して攻撃を繰り返してくるこの状況は、かなりまずいと言って良かった。まともに食らえば一撃で大打撃となる攻撃、それを支える俊敏性、そして息の合った連携。厄介この上無い。
「……うん、そうだね」
 呟くように答えて、サリナはリストレインの籠手に触れる。サラマンダー、そしてイフリート。燃え盛る炎の幻獣たちが息づくクリスタルは、真紅のリストレインの中で揺らめく光を湛えている。
 その光の中、舞い込んだ小さきものがあった。
 サリナは手を引いた。青白い炎の虫が見えたからだ。
「あれ、フライ?」
 スペクタクズ・フライが飛んでいた。離れた仲間たちへの連絡用に、サリナも1匹借りていた。すぐに懐を確認するが、飛んでいるのはサリナが借りたものではなかった。
 ということは、誰かからサリナへの連絡だ。
「フライ!」
 呼ぶと、スペクタクルズ・フライは素早くサリナの耳元に寄った。
 聞こえてきたのは、セリオルの声だった。
 内容を聞いて、サリナは両目を見開いた。目の前には陸亀たちの姿が迫っている。こちらの出方を窺っているようだ。
 セリオルからの連絡内容は、すぐにでもこの場を離れなければ実行出来ないものだった。だがサリナがここを離れれば、街の被害に歯止めが利かなくなる。ユンファひとりで対処するのは、まず不可能だ。
 手をこまねいていられる状況ではない。だが、この場を離れることが出来ない。アダマンタイマイを瞬時に撃破するには、アシミレイトを使うしか無い。だがそれはセリオルからの伝言で確信が得られた、この後に待ち構える戦いのことを考えると、採れない選択肢だ。
 奥歯を噛む。ユンファが伝言の内容を尋ねてくるが、答えることに頭が回らない。がんじがらめのこの状況をどう切り抜けるかを、サリナは懸命に考える。
 そこへ、陸亀の足が振り上げられた。
 急いで回避行動を取る。だが動いた先に別の陸亀の尾が叩きつけられた。まごつくこちらに痺れを切らしたか、魔物たちは一挙に連携攻撃を仕掛けてきた。
「くっ……!」
 ユンファとふたり、次から次へと繰り出される攻撃を回避していく。
 攻撃に手が回らない。焦る気持ちが、サリナの動きから精彩を奪う。
 そしてついに、サリナの膝がガクリと折れた。バランスを崩したところへ、陸亀の牙が迫る。ユンファとフランツの悲鳴が響く。サリナはなんとかして防御の姿勢を取ろうとした。地の型は間に合わない。棍で敵の牙を捌くしか無い。
 だがサリナにもわかっていた。受け流し切ればしないだろう。
 覚悟を決め、サリナは再びリストレインに手を遣る。
 ――そこへ、炎の竜巻が舞い込んだ。
 竜巻は鉄の光を閃かせながら、陸亀の顔面を正面から弾き飛ばした。
 斬撃と炎を同時に受け、陸亀はすさまじい悲鳴を上げた。迎撃が魔物の目を削り焼いていた。予想しなかった痛手に、アダマンタイマイの頑健な皮膚も耐えられなかった。
 ぽかんとして、サリナは背中を見上げた。
「――おいおい、こんなところで苦戦してんのかよ?」
 まず目に入ったのは、大きな真紅のマントだった。擦り切れ、汚れにくすんでしまった、真紅のマント。次に目に入ったのは6本の腕と、そのそれぞれに握られた武器。人間よりかなり大きな体躯。そして――魔なる者だけが纏うことの出来る、美しいマナの光。
「……ギルさん!」
「おー、久しぶりだな?」
 塵魔、ギルガメッシュ。金華山で別れたあの恐るべき力を秘めた塵魔が、そこに立っていた。
「ど、どうしてここに?」
「んー?」
 この状況でも相変わらずの飄々とした声に、全身の力が抜けそうになる。
「どうしてっつーか、まあ……面白いことが、起きそうな気がしてさ」
 言いながら、ギルガメッシュは炎を放っている。物理的な破壊をエリュス・イリアに及ぼせない塵魔だが、しかし炎のマナと同様、彼の得物による攻撃もマナ攻撃であるようだった。ただマナを奪うだけでなく、炎を斬撃のような形にして放っていた。それが燃焼と裂傷のふたつを対象に与えるための、ギルガメッシュなりの工夫なのだろう。
「ね、ねえ、どうなってるの……?」
「俺も、何が何やら……」
 サリナの近くへ走ってきたユンファとフランツが、不思議そうな顔で塵魔と魔物の戦いを見ている。
「何してんだ? こいつらは俺がやるから、早く行きな」
 ギルガメッシュの声。感情の波に翻弄されながら、震える心をなんとか制御しつつ、サリナはイフリートの御座で聞いたギルガメッシュの言葉を思い出していた。
 ――大体あの野郎は気に入らねえんだ、偉そうにしやがって――
 顔がほころぶのをどうすることも出来ず、サリナは叫んだ。
「ありがとう、ギルさん! ほんとにありがとう!」
「ああ?」
 陸亀を吹き飛ばして、ギルガメッシュがこっちを向く。悪魔のような恐ろしい形相。だがそこに、あの剽軽なギルガメッシュの顔が浮かんだような気が、サリナにはした。
「はっはっは。相変わらず甘ぇなあ、サリナ。いいから行ってきな。やることがあんだろ?」
「はい!」
 まるで何が起きているかを知っているかのようなギルガメッシュの口ぶりが、不思議である気もした。しかし塵魔である彼は、ゼノアの狙いを知っているのだろうと結論づけ、サリナは走り出す。いつの間にか流れていた涙を拭く。ユンファとフランツが慌てて追いかける。クリスタルの中で、イフリートが笑っている声がする。
 北に向かって走りながら、サリナはマナのアンテナを広げた。セリオルからの伝言だった。
 ――広域マナ探査を行ってください。奇妙なマナが街のどこか、おそらくは皇城付近にあるはずです。そこが……ゼノアのいるところです。