第205話
脳が痺れたようだった。 視界がぼやけ、霞む。何も考えられない。ただ胸が苦しい。耳元で大きな風の音が聞こえる。ごうごうと轟くその音が不快で、サリナは耳を塞ごうとした。しかし腕が動かない。ただ、胸が苦しい。 「サリナ! サリナ、しっかりしろ、サリナ!」 「フェリオ、これを!」 アーネスは風水の力で固めた空気をフェリオに渡した。フェリオは戸惑いの表情を見せたが、すぐにその透明な塊が何かを察知し、サリナの口に押し当てる。 サリナは倒れ、過呼吸を起こしていた。落ち着かせるためにアーネスが用意したのは、呼気が外に漏れないようにマナで覆われた空気だ。ゆっくりとだが、サリナの呼吸が落ち着いていく。 「ははは。かなりショックだったみたいだね」 ゼノアはアルタナを地面に横たわらせ、無責任な言葉を吐く。 「ゼノア……!」 今度は逃げずに、ゼノアはセリオルに襟首を掴まれた。上背はセリオルのほうが少し高い。 「なんだい、セリオル。そんなに怖い顔をして」 「ゼノア! お前は、お前はッ……!」 だが、セリオルはそれより先を続けない。白けたような目を自分に向けるゼノアの、その目を見ることが出来ない。ただ襟首を掴む手が震え、奥歯を食いしばるばかりだった。 「セリオル……」 カインは、その姿を静かに見ていた。クロイスは押し黙り、シスララは心配そうだ。ルァンたちも混乱しながらも、事態の行き先を見守っている。 「サリナ、無理するな。いいんだ、大丈夫だから」 フェリオの声に目を向けると、呼吸の落ち着いたサリナが身体を起こそうとしていた。過呼吸の影響で、上手く身体が動かないようだ。四肢に震えが起きていた。それでも彼女は懸命に起き上がろうとする。その目は、セリオルに向けられている。アイリーンが寄り添い、小さく啼く。 「セ……リ、オル、さん……」 「よせ、サリナ。今はよすんだ……」 支えるフェリオが制止する。しかしサリナはかぶりを振った。その動きに力は無い。 「サリナ!」 アーネスとシスララが、悲痛な面持ちでサリナを助ける。小柄で華奢なその身体に、入らない力を必死で入れて、サリナは起きようとする。 「セリ、オル、さん……!」 その手が――これまでサリナを守ってきたその手が、ゼノアの襟首から滑り落ちた。膝から力が抜けたように、彼は地面に座り込む。顔は上げない。 「ほら、呼んでるよ? 可愛い“妹”がさ」 ゼノアの目は冷たい。そこに込められた、侮蔑と軽蔑の温度。 血の流れが乱れ、サリナの身体には脳からの指令が正しく伝わらない。彼女の苦しそうな呼吸の音が、やけに大きく聞こえる。仲間たちは言葉を発さない。クロイスが所在なさそうに足元の小石を蹴る。 ただひとり、違ったのは、カインだった。 「おい、セリオル」 彼は低い声でその名を呼んだ。ゼノアが薄ら笑いを浮かべたままの目を向ける。それに怒気を孕んだ視線をぶつけながら、カインはセリオルの傍らに立った。それを追う、サリナの弱々しい目。 「わかってんだろ。ちゃんと話す時だ――ちゃんと」 「ふふふ。一体、君たちはどこまで本当のことを教えてもらってきたんだろうねえ? どこまでが嘘で、どこからが本当かな? いやいやもしかしたら、全部が――」 「うるせえな!」 空気が裂け、地面が爆ぜた。精霊銀を纏った鞭、グランドスコルピオンがゼノアの顔から僅かに離れた空間を引き裂いた音だった。 「……おお怖い」 そう言いながら、ゼノアの顔は事態を面白がっていることを表していた。わざとらしくお辞儀をして、彼はカインに場を譲る。その行為に深い嫌悪を向けつつも、カインはゼノアを無視する。 「なあ、セリオル」 両膝をついてうなだれるままのセリオルの肩に、カインは手を置く。彼はゼノアを警戒しながらも、友の隣で片膝をついた。セリオルの拳が強く握られている。白く震え、血管が浮き出している。 「セリオル――」 かける言葉が見つからない。 カインは自覚していた。自分はセリオルの理解者だと。年齢が近く、また兄という立場であり、仲間たちを率いる年長者でもある。アーネスも含めた3人が、年下の4人をまとめなければならないと思っていた。旅の途中でそんな話を何度もしてきた。アーネスにもセシリアという名の妹がおり、セリオルの場合は本当の血縁ではないが、彼ら3人は揃って長子だった。そんな共通点もあって、様々な苦労話を分かち合った。 そんな話をする時のセリオルの、穏やかな表情がカインの胸に去来する。サリナの我がままに振り回され、サリナの悪戯の後始末に奔走した。サリナの代わりになってダリウやエレノアに叱られたこともあった。しかし自分を兄と慕うサリナと共に過ごしたフェイロンでの10年間が、彼にとってかけがえのない時間だったことは、何よりもその表情が雄弁に語っていた。 どう考えても、疑いようが無いのだ。彼が兄として、サリナを深く愛していることは。 だから、カインには今のセリオルにかける言葉が無かった。彼がどんな考えで真実に口をつぐんだのか。あるいはどんな想いで、これまでの10年を過ごしてきたのか。フェイロンを旅立ってから今日までの間、どんな覚悟で進んできたのか。 ――だって、わからなかったわけがねえんだ。ゼノアと戦うんだから。その傍にアルタナがいることもわかってたはずだ。いつかは言わなきゃならないって、そう思ってたはずなんだ。セリオルは、賢いんだから。 胸が締め付けられるような痛み。カインはただ、親友の肩に手を置いている。 「おーい、みんなー!」 チョコボの嘶きと共に、そこへ舞い込んだ声があった。騎乗したフランツだ。その後ろには、さきほどダグに担ぎ上げられて無理やり退場させられた皇帝の姿もあった。その隣には皇后、そして後ろには憲兵長とその部下と見られる者たちが続く。 「ずっと続いてた地震が収まったから、様子を見に来たんだ……って、お前は」 サリナたちが首都の異常事態を収束させたのだという確信に高揚していたフランツは、その男の顔を見て冷静さを取り戻した。白い髪、赤い瞳、長い白衣。 「ゼノア!」 セリオルから聞いたゼノアの話が脳裏に蘇る。世界に弓引く、狂気の科学者―― 「やあ、フランツじゃないか。久しぶりだね」 屈託も見せずにそう言うゼノアを見つめ、次にフランツは同じ視界の中でうなだれるセリオルと倒れたサリナを見止めた。急いでチョコボから降り、駆け寄る。 「お、おい、何だ一体。どうしてこんな――」 「ゼノアと申したか?」 フランツの混乱を両断して響いた声は、皇帝のものだった。ガルド・カサンドル・パスゲア・フォン・ヴァルドー。狂皇パスゲアの血を引く、現代の皇帝。彼は皇帝専用の美しく雄々しいチョコボの背の上から、ゼノアを見据えていた。 「これはこれは、皇帝陛下。ご機嫌麗しゅう」 慇懃無礼なその態度に眉根を上げながらも、ガルドはそのことに関しては特に何も言わなかった。 「フランツよ。この度の事態、元凶はこのゼノアか?」 「……はい」 皇帝は状況を素早く理解していた。フランツは逡巡を見せたが、真実を告げた。憲兵たちが動く。 「まことか、ゼノア」 皇帝のその声には、どこか無念そうな響きがあった。しかしそんなことにはお構いなしに、ゼノアは答える。 「ええ、まあ」 背後で皇后の短い悲鳴が上がった。皇帝はかぶりを振り、嘆息する。腕を上げ、彼は憲兵たちに命じようとした。しかし―― 「やめときな」 不敬に当たることになど構わず、カインはそれを制止した。憲兵たちがざわめく。仲間たちは静かだった。 「あんたらの手に負えるヤツじゃねえ。捕えられやしないさ」 「彼の言うとおりです。我々が手を出しても、余計な怪我人を増やすだけです」 フランツが援護した。激昂した憲兵長がチョコボから降りて詰め寄ってくる。しかし胸倉を掴まれながらも、フランツは冷静に告げた。 「彼らは、幻獣の使者です。私はその力をこの目で見ました。アダマンタイマイを一撃で葬るほどの力を持つ戦士たちです。その彼らと、恐らくゼノアは対等に対峙して見せた……それが今の、この状況でしょう」 「なっ……」 それ以上の言葉を失い、憲兵長はフランツを掴んだ手を下ろした。 少しの沈黙の後、皇帝が再び問う。 「なぜだ、ゼノア。なぜこんなことを起こした。お前は学問の好きな、善良な子だったはずだ。ぞれがなぜ……ヴァルドーの血に連なる、皇家であるお前が、こんなことを」 ――衝撃が、走った。 「皇家……?」 なんとか上体を起こしたところで止まり、まだ呼吸の荒いままではあるが、サリナはその言葉を口にした。次から次へと明かされる事実に、理解が追いつかない。 「ゼノアが、ヴァルドー皇家……」 「つまり、パスゲアの直接の子孫に当たる血筋ということよね」 フェリオの呟きに、アーネスが続けた。 「ゼノアは狂皇パスゲアの遺体を、墓地から持ち去ったのですよね……」 眉をひそめたシスララの声には非難の色が混じっている。かつて世界の敵として君臨した狂皇であっても、その遺体を子孫が弄ぼうとすることは、彼女にとっては忌むべきことだった。 ゼノアとパスゲア。このふたりをつなぐものに研究者と研究対象という関係以外に、それよりずっと濃い、血縁という関係もあったということが、サリナたちに何かおぞましい嫌悪感を抱かせた。過去と現在。時空を渡って世界に仇なすふたつの存在に刻まれた、血の絆。 「ンだよ。ゼノアがヴァルドーだったから何だってんだ。関係あんのかよ」 そう口にしたのはクロイスだった。頭の後ろで手を組み、彼の態度はいつものように軽々としていた。その口ぶりが、重苦しい空気を和らげる。 「そう、その通りさ」 しかしその同意の言葉を口にしたのが、当のゼノアだった。彼は両腕を広げ、演説めいた仕草で続ける。 「今の僕にとっては、血のつながりなんて何の意味も持たない。僕はただ、僕の目的のために必要だったから、ここに来た。ここにパスゲアの彼は身体があったからね。彼が自分の先祖であるなんていうセンチメンタルな事柄に、僕は興味が無い」 「ゼノア……」 その名を呼ぶ皇帝の目には、哀愁めいたものが漂っていた。そのことには気づいたが、フェリオは敢えて無視した。 「お前の生まれについてなんてどうでもいい。そんなことより、訊きたいことがある」 彼の声に、ゼノアはゆっくりと頭を回して、こちらを向いた。ねっとりとした視線がフェリオに絡みつく。 「おや、何だい、フェリオ・スピンフォワード。君の両親のことかな?」 血管が灼熱し、頭が沸騰しそうになるのを、フェリオは必死で自制した。心臓が白熱する。視野が狭まる。怒りに思考が喰い尽くされる。だが今、その感情に身を任せてはいけない。彼の視界は、ゼノアに殴りかかるものの、そのことごとくをかわされる兄の姿を捉えていた。 「兄さん! 今はだめだ!」 自分でも驚くほど鋭い声が出た。それが兄の頭に冷水をかけたようだった。更に拳を繰り出そうとしていたカインの手は止まり、舌打ちが聞こえた。 「俺が訊きたいのは、そんなことじゃない。なぜお前が、わざわざ自分からこの場へ出てきたのかってことだ」 「……へえ?」 初めてこちらへ興味を持ったように、ゼノアは顔を向けた。カインの攻撃の全てを回避して見せたというのに、その着衣には一糸の乱れも無い。 「ねえ、カイン・スピンフォワード。なかなか冷静じゃないかい、弟のほうは」 「うるせえクソ野郎」 「あははは。怖い怖い」 全く笑っていない目を、ゼノアはフェリオに向ける。 「城での作業が一区切りついたからね。様子を見ようと思って出てきたのさ。僕の大切な、お姫様のね」 びくりと震えたのがセリオルの背中であることに、カインは気づいた。 「……サリナのことか」 「ご名答」 指を振ってフェリオに答え、ゼノアはその足をサリナの方へ向けた。 そこに、セリオルが飛び掛かった。 「ゼノアアアアアアアアアッ!!」 しかし彼の体当たりは、空を切った。地面を転がり、セリオルの法衣が汚れる。 「おいおい、よせよみっともない」 「やめろ! やめろゼノア!」 「よせって言うのに」 ほんの、一瞬のことだった。 取り乱してゼノアを止めようとするセリオルの、その長身の身体が宙に浮いた。 そしてその直後、それ以上の高さに跳躍したゼノアによって、セリオルは地面に叩きつけられる。 「ぐっ……はっ……」 肺の中の空気を全て搾り取られたような苦痛が、セリオルを襲っていた。誰にも、何も見えなかった。止めに入ることもできず、並み居る戦士たちの目の前で、セリオルは戦闘不能に陥った。 「セリオル!」 「セリオルさん!」 カインとシスララが駆け寄り、安否を確認した。何らかの打撃技が加えられたようだ。意識はあるが、身体を動かすことが出来ない。肋骨が何本か折れている。 「本当に大きくなったね、サリナ」 そんなセリオルのことはもはや意識の片隅にも乗らない様子で、ゼノアはサリナに近づいた。アーネスが剣を抜き、フェリオがホルスターに手をかける。ルァンが、ギルが、レオンが、更にその前に立ちはだかった。 「邪魔だよ」 そう聞こえたか聞こえぬかという間に、ゼノアは3人の間をすり抜けていた。ルァンは戦慄した。ゼノアの気配が背後に現れたことに。一瞬前までは目の前にいたのに、今は後ろにいる。彼の移動を、感知することすら出来なかった。 「馬鹿な……」 あまりのことに、それ以上手を出すことが出来なかった。身体中の感覚が警告を発している。この男には、関わってはならない。 そこへ、耳をつんざく咆哮が響く。 空へ舞い上がっていた聖竜ファ・ラクが、急降下と共に足爪で攻撃を仕掛けた。 しかしその攻撃も、あえなく空を切る。 「物騒だなあ」 ゼノアは、ファ・ラクの頭の上にいた。 またしても誰も、その動きを目で追うことが出来なかった。 「な、何なんだあいつは……」 「化け物め!」 仲間たちの間に動揺と恐怖が広がる。目の前の男、それもとても戦士には見えない学者然とした男の得体の知れぬ力に、歴戦の勇士たちが慄いている。 「お座りだ、白トカゲ」 ゼノアがそう言った次の瞬間、ファ・ラクの巨体が大地に沈んだ。地響きが走った。脳震盪でも起こしたか、白目を剥いて昏倒している。 明確な、脅威。 しかし誰も、手を出せない。 少しずつ近づいてくるゼノアからサリナを守ろうと、フェリオが自らの身体で彼女を隠そうとする。その前にクロイスが立つ。額にはびっしりと汗が浮かんでいる。 「全く健気だねえ。まあ、君たちがそうやって守ってくれるから、サリナはここまで成長出来たのかもしれないけど」 クロイスの少し手前で、ゼノアは足を止めた。 「ゼノ、ア……」 「無理するな、サリナ」 まだ整わない呼吸でゼノアの名を呼び、起き上がろうとするサリナを、フェリオが止める。その様子を、ゼノアは目を細めて見ている。 「……君も酔狂な趣味をしているね、フェリオ・スピンフォワード」 ゼノアの声は愉快そうだった。 神経を逆なでするその声に、フェリオが怒りを向ける。 「どういう意味だ」 「いやいや。まあ、サリナは可愛いからね、わからなくもないけど。でもさ、君、ハイドライトで見たんだろう?」 不穏な気配が漂う言葉に、フェリオは眉根を寄せる。 「何だと……?」 「いやあ、あれを見てもなお、サリナに対してそういう感情を抱いていられるなんてさ。博愛主義なんだねえ」 「おいてめえ! 何が言いてーんだ! 意味のわかんねーことばっか言いやがって!」 いきり立つクロイスに、ゼノアは嘲笑を向ける。 「あはは。そうかい、わからないかい……じゃあ、馬鹿な君たちにもわかるように、はっきり言ってあげるよ」 サリナは見た。いつの間にか、アルタナが意識を取り戻して立ち上がっている。彼女はゼノアの後方、倒れ伏したセリオルよりも更に向こうから、こちらへ手を伸ばしていた。右腕を伸ばし、手のひらをこちらへ向けている。 「インフリンジ」 アルタナが呟くと、ゼノアの真横に漆黒の穴が開いた。人間の全身がすっぽり入るくらいの大きさの穴だ。 そこから出てきた者を見て、サリナの目が見開かれる。 「知ってるだろう? 君たちが“光纏う者”なんていう大仰な呼び名を付けた、彼女たちさ」 マナの光。その純粋なマナは薄桃色をしていて、現れた者の全身がその色だった。逆立った髪。筋肉質な肉体。そして――サリナを睨みつける、吊り上がった双眸。 「僕はシンプルに、“エラー”と呼んでいるよ」 「……“エラー”」 オウム返しをするサリナに頷き、ゼノアは続ける。 「そう、エラー。失敗という意味さ。セリオルは言ったんだったよね、彼女たちは幻魔の失敗作だって」 ハイドライトでカスバロ戦の後に現れたゼノアと交わした会話を、サリナは思い出していた。彼女がした“光纏う者”についての質問に、ゼノアは答えた。幻魔を生み出す過程での失敗作というセリオルの説明は、間違いではないと。 間違いでは、ない。 「ただ、正解でもなかったね、彼の言葉は」 ドクン、と心臓が跳ねる。身体が拒否反応を示すのがわかった。その先を聞きたくない、聞いてはならない。 「サリナ!?」 呼吸が速くなる。 「“エラー”は“エラー”。失敗作には違いない」 呼吸が速くなる。 「サリナ! やめろゼノア! それ以上話すな!」 「だからこうして、処分される」 すっ、と出されたゼノアの手に、“光纏う者”は切り裂かれた。断末魔の声も無く、その姿は光の粒となって空に舞い上がる。場違いに美しい景色。 呼吸が、速くなる。 「サリナ! しっかりしろ、サリナ! もう聞くな!」 クロイスが攻撃する。怒りで頭が真っ白だった。2本の短剣が神速の動きで繰り出される。しかし彼の素早い攻撃も命中することは無く、ゼノアが伸ばした腕に小柄な身体は吹き飛ばされて沈黙した。 「失敗作は失敗作。でも、それは幻魔の失敗作じゃあない。幻魔の失敗作は、そこにいる塵魔だ」 ギルは動けない。 呼吸が、速くなる。速くなる。速くなる。 「くそ! もうやめてくれ! これ以上サリナを苦しめるな!」 フェリオの悲痛な声。 耐えかねた仲間たちが次々に怒りの叫びを上げ、攻撃をしかける。アリスが、ダグが、ユンファが、フーヤが、セリノが。全員がゼノアの軽い反撃で吹き飛び、地面に転がった。どこをどう攻撃されたのかもわからぬままに。 そして――ゼノアは、真実を告げる。 「“エラー”は、失敗作だよ……サリナ、君のね」 |