第29話

 国王の自室には、有事の際に脱出口となる秘密の通路の入り口があった。メイドを下がらせた国王は、私用の書棚に詰め込まれた本を並べ替えた。すると書棚がするすると横に動き、その後ろに仄暗い通路が現れた。入り口が出現すると、通路の壁に設けられた燭台に明かりが灯った。統一戦争時代のマナの技術だとセリオルは解説したが、フェリオ以外は誰も理解出来なかった。
 王城の高い位置にある国王の部屋から、通路は階段となって下へ下へと向かった。豪奢なガウンを纏ったウィルム王の背中について、サリナたちは足を進めた。イリアス王国の歴史上国王にしか伝わらないというイリアスの試練。それを受けることを命じられた者は、城の地下、試練の迷宮に挑むことになる。目的は、最深部に眠るという真実を見通す水晶を手に入れることである。
 謁見の間を後にしたサリナたちは、一度“騎士の剣亭”に戻って装備を整えた。迷宮を攻略するのに、正装では動きづらくて仕方がないからだった。
 宿のオーナー、アルベルトは事情を聞いて、たいそう驚いていた。セリオルが戻ったことに何か大きなことが起こるのではとの予感がしていた彼だったが、まさか国王から試されることになるとは思わなかったらしい。
 セリオルは旧知の仲であるアルベルトから、現在の王都に関する様々な情報を仕入れていた。幻獣研究所の評判や王立の学校との関係性、そしてそれらを取りまとめている役所や省庁の状態。人と金と力の関係性を、細心の注意を払って彼は観察していた。王都で顔を晒して歩くことの出来ない彼は、アルベルトを王都と自分を繋ぐ窓口として頼っていたのだった。アルベルトはかつて自分の生活を支えてくれた貴重な店子だったセリオルに、何でも力になると協力を惜しまなかった。セリオルもかつて割安の家賃で住まわせてもらった恩義に加えて、今回のことで更にアルベルトへの信頼を増していた。
 神童。セリオルは王都で常にそう呼ばれた。辺境と呼ばれる地域で生まれた彼は、その類まれなる頭脳で栄光への階段を上っていった。13歳という年齢で竜王褒章の受章が決まった時は、それこそエリュス・イリア全土に彼の名が知れ渡るのではと思われるほど、彼は持て囃された。
 彼には輝かしい未来が約束されていた。それはもちろん、彼の血の滲むような努力と、光に向かって突き進む情熱とがあればこそだった。王立の研究機関、幻獣研究所に入所した彼は、大きな希望の火を胸に燃やしていた。
 だが、その灯火を奪い去った男がいた。ゼノア・ジークムンド。セリオルの同輩であり、当時の幻獣研究所所長エルンスト・ハートメイヤーを、自らの欲望のために幽閉した男である。その事件によって、セリオルは王都を出奔することとなり、彼の栄光の未来への道は閉ざされた。
 だが――とセリオルは自問する。自分を信頼し、心から協力してくれるアルベルトのようなひとがいる。王都を永く離れ、身分も失い、どこの馬の骨ともわからぬ身となった自分を、それでも試してみようと思ってくれる国王がいる。そしてなにより、自分を信じ、頼り、慕ってくれるサリナが、仲間たちがいる。自分の人生もまだ捨てたものではないと、セリオルは王の背中を見つめながら思うのだった。
「セリオルさん、どうしたの? 元気ないの?」
 隣りを歩きながら自分の顔を覗き込み、小さな声で訊いてきたのはいつもの武道着に着替えたサリナだった。その澄んだ瞳を見て、セリオルは小さくかぶりを振った。余計なことは考えぬが良い。微笑み顔を作って、彼は妹のような少女に答える。
「いえ、何でもありません。大丈夫ですよ。元気満点です」
 その言葉に、サリナはにこりと笑った。
「そっか、良かったです。セリオルさんが元気ないと、私も元気なくなっちゃいます。元気に行きましょう、元気に! きっと迷宮って、また意地悪な仕掛けとかいっぱいありますよ。セリオルさんに考えてもらわないと、きっと大変です」
 前を向いて独り言のようにそんなことを言っているサリナを見て、セリオルは思った。本当にまっすぐな、良い娘に育ってくれた。ダリウとエレオアには感謝してもし足りない……自分がそう思うことはお門違いだと自覚しつつも、そんな気持ちを抱かずにはいられなかった。
「ちょっとは自分でも考えてくださいね、サリナ」
「うっ……はい」
「余計な口を利くな。国王様の御前なのだぞ」
 振り返って冷ややかな声を浴びせたのは、王国騎士団金獅子隊隊長、アーネスだった。長い髪をまとめた彼女は、背筋をすっと伸ばして王のすぐ後ろに控えていた。女性にしては長身な彼女の立ち姿に密かに憧れの感情を抱いていたサリナは、彼女からの厳しい言葉に縮こまった。
「ご、ごめんなさい」
「良い、アーネス。彼らは罪人ではないのだ。そうぴりぴりするな」
 ヴリトラの声に、アーネスは姿勢を正した。
「はっ」
 そこに聞こえるか聞こえないかの境い目くらいの声で、アーネスの耳にたどり着いた声があった。
「そーだそーだ! おカタイことばっか言ってんじゃねーよ!」
「あいつモテねーぜ、あれきっと」
「ああ、絶対そうだ。騎士だかなんだか知らねーけど、お高く留まっちゃってなあ」
「俺、金持ち嫌いなんだよ。生まれが良かっただけで偉そうにしやがって」
 アーネスはその声を記憶していた。謁見の間で聞いた、カイン・スピンフォワードとクロイス・クルートの声だった。鋭い目で振り返った彼女に、そのふたりはさっとフェリオ・スピンフォワードの陰に隠れた。フェリオは頭を抱えている。
「ご、ごごご、ごめんなさい」
「申し訳ありません、後できつく言っておきますから」
 代わりにセリオル・ラックスターとサリナ・ハートメイヤーが彼女に謝罪した。本当に困ったものだといった風に、カインとクロイスのほうを見ている。そのふたりはと言うと、フェリオの陰からこちらに向けて舌を出していた。フェリオは頭を抱えている。
「何なのだあの者たちは。礼儀というものを知らんのか!」
 そう怒りを顕わにするアーネスに、サリナとセリオルのふたりはただ謝罪するばかりだった。その様子に、アーネスは溜め息をついた。
「着いたぞ、ここだ」
 下々の他愛無いやり取りなど知らぬとでも言うかのように後ろでの会話を一切無視して、ヴリトラ王はそう言った。国王は階段の途中、踊り場に立っていた。彼の前には、当然のことながらまだ階段が続いている。サリナは不思議に思ったが、その疑問はすぐに解消された。
 ヴリトラは壁を向いた。そしてその石造りの壁のある箇所を手で押した。するとごとりと音を立てて壁が窪み、何かを載せるためらしき台がせり出してきた。台には獅子の形を縁取った穴が開いている。国王は手にしていた錫杖から、獅子を象った装飾品を取り外した。それを穴に嵌め込むと、壁の向こうで大きな音がした。入って来た通路の入り口と同じほどの面積の壁が、ごとりと音を立てて後ろへ下がった。その下がった壁は、そのまま鈍い音とともに床に沈み込んでいった。
 新たな通路の入り口が現れた。さきほどと同じように、中の燭台に明かりが灯る。通路はやはり階段になっているらしく、下へ向かうようだった。
「これを持て」
 国王はサリナに、今しがた使った獅子の装飾を手渡した。サリナは慌てて両手を差し出した。
「え、あの、王様、これ」
「この奥で、迷宮の封印を解かねばならぬ。余が付き添えるのはここまでだ。この通路に足を踏み入れた瞬間に、迷宮の束縛にかかることになる。その解除にもその獅子を使うのだ」
「なるほど……ありがとうございます」
 ぺこりと礼をするサリナに、国王は小さく頷いた。
「封印を解かれた迷宮はきわめて危険だと言う。心してかかれ。健闘を祈る」
 そう言い残して、国王は皆に背を向けた。後続だったカインたちが道を開け、王はゆっくりと今来た階段を上っていった。サリナたちは口々に感謝の言葉を述べ、アーネスは最敬礼の姿勢を崩さなかった。
 やがて王の姿が見えなくなると、一同は改めて通路の奥に目を遣った。サリナは通路の奥に、得たいの知れないマナを感じた。迷宮そのものが放つマナなのか、それとも最深部にあるという水晶のものなのか。まだサリナには、それはわからなかった。
「どうした、臆したか」
 アーネスが皮肉を込めた口調で言った。謁見の間からの一連の流れの中で、サリナはアーネスが自分たちを良くは思っていないことを感じていた。国王の前での態度や、幻獣を使役して王国の要人たちを払ったことなどを遺憾に思っているのだろうと、サリナは推測した。この場ではないにせよ、いずれこの誇り高き騎士とも和解出来ればいいと彼女は願った。
「行きましょう」
 アーネスの言葉など耳に入らなかったかのように、セリオルがそう言って足を踏み出した。
 先陣を切った彼が通路に入ると、踊り場と通路の境界、さきほどまで壁があったところに薄い緑色の、半透明の膜のようなものが一瞬現れた。
「あっ」
 驚いたサリナが発した声に、セリオルが振り返る。膜はもう見えなくなっていた。
「どうしました?」
「セリオルさんが通ったら、ここに膜みたいなものが出ました」
 腕を伸ばしてみたが、サリナの手は何にも触れることは無かった。しかしセリオルが腕を伸ばすと、その手は膜に触れて止まった。セリオルが触れると、膜は再び姿を現した。
「これは……なんらかの魔法で張られた結界のようですね」
「結界?」
「さきほど国王様が仰っていた、迷宮の束縛というやつでしょう。強力な結界のようです。中に入ったものを簡単には外に出さないための」
 その言葉に、サリナは緊張を覚えた。知らず、彼女は左手首のリストレインに触れていた。
「まーまー。なんとかなるって。そう重っ苦しく考えるなよ。最悪その飾りがあれば出て来れるんだろ?」
 カインの言葉はいつもの調子と変わっていなかった。階段の数段上にいた彼は踊り場に下りてきて、サリナの肩に手を置いた。そのまま進んで、カインはセリオルの隣りに立った。
「兄さんの言うとおりだ。心配ないよ、サリナ。俺たちは強いんだ」
「どーせ魔物とか出てくるんだろうなぁ。ま、敵じゃねーけど」
 そう言いながら、フェリオとクロイスも通路の中へと足を進めた。ふたりが入り、結界が瞬間的に可視化する。
 皆がサリナを見ていた。4人揃って、早くこっちに来いという顔をしていた。何も心配しなくていいと。自分の父を救うために仲間たちに協力してもらっているという意識から、ともすれば深刻に考えてしまうサリナだったが、その仲間たちのお陰で随分気持ちが軽くなった。
「待ってください!」
 サリナは笑顔で、通路へ飛び込んだ。その様子を見ながら、アーネスがそれに続いた。

 ヴリトラが言った封印は、階段を一番下まで下りたところにあった。
 階段が終わると、やや広い空間があった。真正面に、迷宮の入り口らしき巨大な扉がある。その扉に、青や緑や赤に色が変わる大きな円形の、恐らく魔法によるものと思える象形が浮かんでいた。円の内外には複雑な文字が並んでいるが、サリナにはその意味は全く理解出来なかった。円陣と文字はゆっくりと明滅を繰り返していた。
「これが、封印?」
「恐らく」
 サリナの疑問に答えながら、セリオルは円陣の前まで進んだ。セリオルの身長を遥かに超える高さに円陣も魔法文字も存在していたが、彼は顔を上へ向けて懸命に解読しようと試みた。
「しかしでっけーなおい」
 サリナとセリオルの後ろで、カインが目の上に手を翳して円陣を見上げていた。太陽は無いので手を翳すことに全く意味は無かったが、誰もそれには言及しなかった。
「なあ。でけーな。なあフェリオ」
「そうだな」
 フェリオは円陣と文字の全体像を把握しようと努めていた。統一戦争時代の魔法技術には造詣の深くない彼には難題だったが、滅多に目にすることのない遺物である。兄のよくわからない言葉に耳を貸している暇は無かった。
「おいおい、なんてでかさだよおい。なあクロイス」
「そうだな」
 クロイスはこれまでほとんど目にすることの無かったマナや魔法の力を使った遺構に、ただ圧倒されていた。自分の手元にあるクリスタルがこの世で最高のマナ技術の結晶なのだが、それはクロイスの意識には無かった。ついでにカインのよくわからない言葉も意識には無かった。
「はっはっは。なんだ皆。ちょっとばかし冷てえな。泣いちゃうぞ」
「お前、可哀想な男だな……」
 唯一カインの言葉に反応してくれたのは、意外なことにアーネスだった。カインは静かに涙した。
「これはさすがに、私も解読には時間がかかりそうです」
 円陣から目を離し、セリオルは下を向いて頭を振った。見上げてばかりいたので首が疲れたのかもしれない。
「力を貸そうか」
 渦巻く風のような声が響き、セリオルの法衣の下からリストレインが持ち上がった。翠緑色の輝きとともに、クリスタルはリストレインから分離して形を変え、ヴァルファーレが現れた。
「ヴァルファーレ。突然どうしたんです?」
 ヴァルファーレはばさりとひとつ羽ばたき、宙へ舞った。彼は空中で浮遊しながら円陣の前で停止した。
「この文字を読むのはさすがのお前でも難しかろう、セリオル。文献が手元に無い状況では。私が読んでやろう」
「いいんですか?」
「構わぬさ。私はお前に協力すると決めたのだから」
「なんだヴァルファーレ、優しいとこあるじゃねえの」
 言いながらヴァルファーレのそばまで来たカインは、ヴァルファーレの肩を叩こうとでもするかのように腕を伸ばした。当然届くはずは無く、その手は空を切った。
「あいつ、もしかして馬鹿なんじゃないのか?」
 アーネスは近くにたクロイスに問いかけた。クロイスはそれに、にべもなく答える。
「もしかしなくても、あいつは馬鹿だよ」
 円陣の前では、ヴァルファーレが羽ばたきながら魔法文字を読んでいた。ひと通り読み終わったのか、開かれた嘴から風の声が流れ出る。
「大した意味のことは書かれていない。この試練に挑む者への忠告だ。迷うな、後戻りするな、諍いを起こすな。知恵と力とを絞って、最深部まで到達せよ。以上だ」
「特に呪文のような内容ではないのですね」
 ほっとしたようにセリオルが言った。魔法的な何らかの技術が必要だとすると、場合によっては進入出来ないかもしれないと考えていたからだった。
「こういった装置に、特に呪文は必要無い。重要なのは言葉にマナを乗せる、言霊とすることだけだ。ヴリトラから受け取った獅子の装飾品を掲げてみよ」
 言われた通りに、サリナが進み出て獅子を掲げた。獅子の両目が光り、その口が動いた。咆哮が響く。獅子は命を得たように躍動した。サリナの手の平から空中に飛び上がり、宙を蹴って上昇した。
「どういう仕組みなんだ……?」
「わかりません。統一戦争時代の技術は、凄すぎる」
 フェリオとセリオルが感動したように呟いた。
「あれ欲しいな」
「欲しくねーよあんなもん」
 カインは面白がって目を輝かせ、クロイスは少し怯えたようだった。
 驚いたことに、獅子はその口に円陣と魔法文字を吸い込んでいった。ベッドのシーツをつまんで引っ張った時のように、空中に浮かんでいた明滅する光が吸い込まれる。全てを吸い込んで、獅子はまたひとつ咆哮した。獅子は宙に浮かんだ時と同じように、空気を蹴るような動作で空中を移動し、サリナの手に戻った。生きているかのように動いていた獅子は、元の金属製の装飾品に戻っていた。
「ありがとう、小さな獅子さん」
 サリナがそう言うと、獅子の目が少し光ったように見えた。
「私が協力出来るのはここまでだ。あとは自分たちで何とかするがいい」
「ええ、ありがとうございました、ヴァルファーレ」
 セリオルの言葉に頷くような仕草を見せ、ヴァルファーレはクリスタルへと姿を戻した。クリスタルはセリオルのリストレインに収まった。翠緑色の光が消え、あたりは再び燭台の灯火に照らされた。
 封印を解かれ、扉が幽かな光を放ち始めた。続いて地の底から響くような低い音とともに、巨大な扉が開いていった。
「うお。な、なんかすげえぞ」
「う、うん、おなかに響きますね」
 カインとサリナが腹を押さえて身を縮めた。その様子にフェリオが苦笑する。セリオルはただ開いていく扉を凝視していた。大いなる魔法の力の詰まった遺構に、心が震えているようだった。クロイスは連続して起こるマナの不思議な現象に、少々萎縮していた。恐ろしいものではないとはわかっていても、まだ慣れなかった。アーネスはそんな5人の様子を静かに観察していた。
 扉が全開した。奥には暗闇が広がっていた。
 扉の向こうから風が吹き出してきた。6人は全身にその風を受けた。その瞬間、サリナは急に左腕が重くなるのを感じた。より正確に言うなら、左手首が鉛のように重くなった。
 目を遣ると、真紅のリストレインがその色を失っていた。それこそ鉛のような、光をほとんど反射しない金属に変貌していた。
「な、なにこれ、リストレインが!」
 同じ現象が仲間たちにも起こっていた。各々がリストレインを身体から外し、目の前に掲げた。
「なんだこりゃ。どうなってんだ」
「リストレインがマナを失ってる」
 スピンフォワード兄弟が首を捻っている。この現象には、セリオルもお手上げのようだった。クロイスはスピンフォワード兄弟と同様、わけがわからないという風だった。鉛のようになってしまった短剣型のリストレインを振り回すが、何も変化が無い。
 しばらく考えて、セリオルがひとつの推論を口にした。
「さきほどヴァルファーレが協力出来るのはここまでと言ったのは、もしかしてこれのことだったんでしょうか」
「じゃあ、ヴァルファーレはこうなることを知ってたってことか」
 クロイスが短剣を目に近づけ、間近で観察しながらそう言葉を添えた。彼は何気なく言ったつもりだったが、その言葉にセリオルは卒然として顔を上げた。
「この試練、もしかすると我々だけの力で――つまり幻獣たちの力を借りることを一切禁じられた状態で、最深部に行かなければならないのでは」
 セリオルの言葉に、仲間たちは顔を見合わせた。かつてない状況だった。リストレインが、アシミレイトが使えない。
「おい、それ、やばくね?」
「そんな軽く言える状況じゃないくらい、やばい」
 青ざめた顔のクロイスに、フェリオは固い口調で答えた。その思いは皆が同じだった。アーネスは状況がよく理解出来なかったが、特に口は挟まなかった。
 そんな人間たちをよそに、扉の奥の暗闇に光が灯った。これまでの通路と同様、壁に備えられた燭台に火が入ったのだった。
 扉の奥は、巨大な空洞になっていた。しかしその空洞の中に、無数の階段や扉、あるいは石で囲われて内部が部屋になっているらしき大きな立体が存在していた。数え切れないほどの燭台の炎が、迷宮を照らし出している。幻獣たちの助けを禁じる、試練の迷宮が姿を現した。

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