第79話

「跳べ、イロ!」
 クロイスが命じると、イロは速度を落とさぬまま跳躍した。紺碧のチョコボは轟音を立てて動く足場に見事に着地し、危険な落とし穴を回避した。跳躍のために一度停止すれば、速度は殺されてしまう。タイミングを上手く合わせなければ、大きな遅れを取ることになる仕掛けだった。
「くそ……あいつ、速え!」
 クロイスは歯噛みする。ランスロットとアロンダイトは、相変わらずクロイスとイロの先を行く。クロイスたちは最初の仕掛けを華麗にクリアし、観衆の喝采を浴びた。しかしランスロットたちは、その更に上手である。
 落とし穴の仕掛けで、レースは早くもその順位の大部分を決定づけた。多くのチョコボが跳躍のために停止し、せっかく得たスピードを奪われたのだ。初挑戦のクロイスたちが上手く越えることが出来たのは、僥倖と言えた。
 レースは紺碧の2羽のトップ争いの様相を呈した。どうやら脚力において、アロンダイトはイロを上回っている。それなら、とクロイスは考える。仕掛けを上手くクリアするか、相手の邪魔をするかだ。
「ま、今回はそれは無しにしとくか」
 黄金の装具を纏うチョコボを追いながら、クロイスはにやりとしてみせる。
 長い直線の終わり、次なる障害が姿を現した。巨大な仕掛けだ。蒸気機関の唸る音が聞こえる。
 それは何枚もの正方形の壁が横から飛び出してきて、、チョコボを押そうというギミックだった。当然、それを受ければチョコボは勢いを殺されるだろう。転倒もしかねない、危険な障害だ。
 アロンダイトがその仕掛けに突入した。壁が飛び出すタイミングを上手く見計らい、クリアしていく。
 しかし最後のほうで、ランスロットは判断を誤った。1枚の壁のタイミングを計り損ね、横からの殴打を受けてしまった。アロンダイトが悲鳴を上げる。足元がふらつく。思った以上に、その壁のダメージは大きい。
 一度失った勢いは、簡単には戻らない。アロンダイトはその後の壁にもぶつかり、頭を振った。
 クロイスはそれを見て、会心の笑みを浮かべた。アロンダイトが遅れを生じさせたためばかりではない。仕掛けの動きを見切ることが出来たからだ。
「助かるぜ、金ピカ野郎!」
 白銀の装具を纏うイロが、壁の仕掛けに突入する。観客が沸きあがる。本命、アロンダイトが苦心した仕掛けに、飛び入り参加ながら良い戦いを見せているイロがいかに挑むのか。観客たちはそこに注目していた。
 イロは仕掛けの手前で速度を少し落とした。観客がどよめく。しかしすぐに、観客たちはクロイスの意図を知ることになった。
 イロはタイミングを計ったに過ぎなかった。少し速度を緩めた直後、イロは壁の仕掛けを一気に突破した。速度を殺されていたアロンダイトを抜き去り、トップに躍り出る。
「へっへ! お先ー!」
 ランスロットを振り返り、クロイスは極力憎らしく聞こえるように努めた声でそう言い放った。ランスロットと目が合う。クロイスよりもはるかにレースの経験豊富な騎手は、突如現われた少年を睨みつける。
「やるじゃないか、初心者にしては!」
 吠えて、ランスロットはアロンダイトの手綱に力を込める。アロンダイトはひと声高く嘶き、渾身の脚を入れる。
「んなっ!?」
 闘争心を燃やすアロンダイトは、直線であっという間にイロに追いつき、抜き返した。クロイスは驚きに口が閉じない。
「トレーニングが足りないんだよ、初心者君!」
 そう言いながらこちらを振り返ったランスロットに、クロイスはすぐさま言い返した。
「ったりめーだろ! ぶっつけなんだからよ!」
 もっともなその言葉に、ランスロットは顔をしかめただけで何も言わず、前を向いた。クロイスはその背中に向けて、舌を出した。
 レース場に大きな池がある。次はその池を越える障害だ。
「クエ!」
 イロが警戒の声を上げる。何事かと思って、クロイスは気づいた。イロが後ろを気にしている。
 クロイスはちらりと後ろを見た。何羽ものチョコボたちが、団子になって走っている。イロとアロンダイトはその集団をかなり離してはいるものの、どこかの障害でつまづいたらあっと言う間に追いつかれるだろう。他のチョコボたちもよく訓練されているのだ。アロンダイトばかり見ていては、足元をすくわれかねない。
「ああ、気は抜かねーよ」
「クエ」
 アロンダイトは池に浮かぶ巨大な蓮の葉を跳び移っていく。
 蓮の葉は大きいが、水面に浮いているだけなのでチョコボの大きな身体を支えるだけの浮力は持たない。ほんの一瞬、チョコボの体重を分散させるだけだ。瞬間的に次に跳び移る葉を判断しなければ、池に落ちることになる。
「あれぐらい軽いだろ、イロ」
「クエ!」
 観客たちは度肝を抜かれた。
 白銀の装具を身に付ける飛び入りのチョコボが、池の上を走ったのだ。
 イロは池の水面を疾走した。川辺での狩りで身に付けた能力だった。イロは他のチョコボと比べて足の指と爪が長く、水面に対して足の面積が大きい。そのため、体重が上手く分散されるようだった。
 観客たちの大歓声に、ランスロットは何事かと振り返る。彼は自分の目に映った信じがたい光景に、悲鳴を上げた。
「反則じゃないか!」
「池の上を走っちゃいけねーなんて、言われてねーな!」
 言い捨てて、クロイスは蓮の葉を飛び移るランスロットとアロンダイトを置き去りにした。葉を頼りにするしかないアロンダイトは、イロの直進する速度には到底及ばなかった。
 またしてもイロがトップを取った。観客が沸く。観客席のどこかで見ているはずの仲間たちの顔を思い浮かべる。
「見てろよ、絶対取ってやる!」
 このレースの優勝者には、優勝メダルと、副賞として“紅蘭石”と呼ばれる宝石の埋め込まれた盾が授与される。紅蘭石は、数ある宝石の中でも特にマナへの影響の強い宝石だ。セリオルは言った、それがあれば調合の能力を強化できるはずだと。今後の戦いが楽になるはずのその副賞を、クロイスは手に入れたかった。
 アロンダイトにかなりの差をつけることが出来た。残る障害は3つ。クロイスは次なるギミックへと突入する。
 今度は足を止めざるを得なかった。いくつもある、騎手の頭の高さに設置されたアイテムボックスの中から、ひとつを選んで使用しなければならない。レースの助けになるものもあれば、足かせとなるものもあるのだろう。
「なんだよこれ、仕掛けって言うかこれ」
 毒づきながら、クロイスは特に深く考えず、アイテムボックスを選んだ。
 開くと、そこにはイロの好きな果物が入っていた。嬉しそうな声を上げて、イロはその果物を嘴にくわえた。
「良かったな、イロ」
「クエ!」
 どうやらクロイスたちは幸運だったようだ。レースには特に影響の無いものを引き当てた。後続の騎手たちには、激辛に味付けされた野菜や、極端に苦い果汁などを引き当てて悲鳴を上げるものもいた。
 ランスロットは、瞬間的にチョコボの脚力を増強するアイテムを引き当てた。クロイスの背中がどんどん近づいてくる。
「初参加のチョコボになんて負けてたまるか!」
「クエー!」
 そう吠えて、ランスロットとアロンダイトは懸命に速度を上げる。アイテムの効果はほんの一瞬だ。しかしここは直線。脚力で勝るアロンダイトは、イロに肉迫した。
「てめえ、しつけーよ!」
「ふん、レースは真剣勝負だ。悔しければ追って来い!」
 アロンダイトがイロをかわす。繰り返される首位奪回劇に、観客たちが沸く。
 トップを奪い返して、しかしランスロットは思っていた。イロとクロイスは手ごわい。開始前に聞いたところだと、レースのための訓練など受けたことの無い、ほとんど野生のままのチョコボのはずだ。
「野生の力、恐るべしだな……」
 ブロンズカップから始まる、チョコボレースのランク争い。各ランクで一定の勝利を挙げれば、ひとつ上のランクに昇格することが出来る。
 アロンダイトは、優れた力を持つ2羽のチョコボを親に持った、血筋に秀でた名チョコボだ。幼い頃からレースチョコボとしての調教を受け、走るために育ってきた。
 ランスロットもまた、騎手養成学校を主席で卒業した、チョコボレース界の次代のエースと呼ばれる騎手だ。チョコボレースの最上位、レジェンドカップで優勝することを夢見て騎手を志した。
 こんなところで、どこの馬の――いや、どこの鳥の骨ともわからぬ相手に、負けるわけにはいかない。
 勝利への渇望。それが闘志となって、ランスロットとアロンダイトの瞳に炎を灯す。
 次の障害に差し掛かった。
「これはっ!?」
 芝の地面に穴が開き、そこから大きな機械が飛び出してくる。飛び出してはまた地中に戻るその機械は、出てきた瞬間に強烈な空気の塊を吐き出し、向かってくるチョコボにぶつけようとしてくる。
 観客が驚きの声を上げる。初めて見るギミックに、ランスロットは驚きの声を上げる。どう攻略したものか、すぐに判断がつかない。定石どおりにいけば、ギミックが地中に隠れた瞬間に駆け抜けるのだろうが……。
「なにっ!?」
 しかし更なる事態がランスロットとアロンダイトを襲う。
 なんと、空気の塊を吐き出す機械が、同時に何体も現われたのだ。これでは空気が向かってこないコースを取って走ろうにも、避けた先に次なる機械が現われてしまう。
 少し速度を落として、ランスロットは考える。そして出た結論は、シンプルかつ確実なものだった。
「細かくコースを変えるしかないか……よし、いくぞアロンダイト!」
「クエー!」
 気勢を上げて、アロンダイトは脚に力を込める。
 どん、と大きな音を立てて、強烈な圧力の空気が射出される。それは芝を巻き上げて吹き付けるので、だいたいの位置は把握出来た。
「うわっ!?」
「クエエ!?」
 しかし、避けたと思った風が避けきれておらず、余波に巻き込まれてしまった。それだけでもアロンダイトのバランスは崩されかける。観客がどよめく。期待と不安の入り混じった観客の声が、ランスロットとアロンダイトの心を乱す。
「くそ……厄介だな」
 慎重に、ランスロットはアロンダイトを進ませた。風の動きを予測する。ギミックの出現するタイミングを計ろうと、走りながら観察する。
 予想した位置に現われたギミックが吐き出した空気砲を、アロンダイトは見事に回避した。観客が歓声を上げる。
「はは! こんなものさ!」
 ランスロットがそう満足げな言葉を口にした直後、観客たちから笑い声が上がった。何事かと、ランスロットは振り返る。
「助かったぜ、サンキュー!」
 すぐ後ろに、クロイスとイロがいた。ランスロットは状況が飲み込めない。こいつら、なぜこんなに近くまで来ている?
「お前らの後ろについて走ったら、すげー楽だったよ」
「なに! ひ、卑怯だぞ! ひとの考えを利用するなんて!」
「あんだよ、別にいいだろ。俺ら初心者なんだし」
「くっ……」
 返す言葉を失い、ランスロットは前を向いた。クロイスはある意味で正しい。初めてのギミックに、無防備に突撃することは無いのだ。先行するチョコボの動きを利用することは、レースではよく行われる。
 頭を振って、ランスロットはコースの先を見つめる。間もなく次の障害だ。
 最後jの障害は、高い壁だ。走力ではなく、垂直に跳ぶ力が試される。
「よし、いくぞアロンダイト!」
「クエ!」
 これは今までにも何度か経験のある障害だ。これならばクロイスとイロに追いつかれることはないだろう。アロンダイトは落ち着いた様子で、壁に設けられた狭い足場を次々に乗り移り、壁を登っていく。
「うーん」
 壁に向かって走りながら、クロイスは考えていた。あの壁は苦手だ。イロに真上に跳ぶなどということはさせたことが無い。しかもどうやら、ランスロットとアロンダイトはあれを経験したことがあるようだ。手馴れた様子で登っていく。
 このままでは、勝てない。
「アシミレイトするわけにもいかねーしな……」
 アイテムの使用は禁止されている。リストレインもその範疇に入るだろう。
 クロイスは考えた。壁はもう目の前だ。どうすればランスロットに勝てるか。ここで逆転できなければ、最後の直線で追い抜くのは難しいだろう。どうしたものか……。
「よし。そうしよう」
「クエ!」
 高い壁を登り終え、ランスロットは眼下を見下ろした。ここから、あとは降りて走るだけだ。登ることと比べれば、さしたる苦労ではない。
「注意して降りるんだ、アロンダイト」
「クエ」
 返事をして、アロンダイトは下りの足場に跳び移る。一気に飛び降りるのはさすがに危険だ。ある程度地面が近くなるまでは、少しずつ降りていくしかない。
 アロンダイトが順調に足場を降り、地面が徐々に近づいてきた時だった。観客から、今日最大の歓声が上がる。
「な、なんだ!?」
 またクロイスが何かしでかしたか。その嫌な予感に、ランスロットは壁を見上げる。
 しかし、そこにクロイスとイロの姿は無い。ただ無愛想な壁と、美しい青空があるばかりだ。
 ランスロットは不思議に思いながら、視線を元に戻した。そして彼は、それを見た。嫌な予感が当たった。
 イロが宙を飛んでいる。なんと、クロイスはイロに壁を登らせず、壁の脇を飛んで回避するという、前代未聞の行動に出たのだ。
「な、なんでチョコボが飛ぶんだよ!?」
「ク、クエー!?」
 クロイスとイロは、瞬く間に壁の障害をクリアし、元のコースへと戻った。振り返って、クロイスは憎たらしい顔でこう言ってのけた。
「トレーニングが足りないんだよ、エリート君!」
「な、なにをー!?」
 ランスロットはアロンダイトを急がせた。とはいえ、ここで無茶をしてアロンダイトに怪我をさせては元も子も無い。逸る気持ちを抑え、ランスロットは着実に、そして素早く壁を降りる。
「あれは反則には……ならないか。くそ!」
 レースの規定は、障害を越えることでしかない。壁を登ること、ではないのだ。手段は問われない。騎手とチョコボの力だけで障害を越え、ゴールに到達すれば良いのだ。
 ランスロットは地面に戻ったアロンダイトを走らせた。最後の直線。イロとの差は大きい。しかし、脚力ではこちらに分がある。あとは走るだけだ。全力で。
 クロイスは後ろから迫ってくるはずのアロンダイトが不気味だった。あのチョコボは速い。差はつけたが、ゴールまではまだ遠い。果たして追いつかれる前に、到達することが出来るだろうか。
 白銀と黄金、それぞれの装具を纏った美しい紺碧のチョコボが、最後の直線を走る。2つの風となった2羽のチョコボ。アロンダイトがイロを追い上げる。それはまるで、逃げる月に追いすがろうとする太陽のようだった。
 観客たちが応援の声を上げる。もはや彼らにとって、購入した券の当たり外れはどうでも良くなっていた。飛び入り参加のイロに賭けた者など、ほとんどいなかったのだ。ただ彼らは、稀に見る名勝負に沸いていた。
 だが、ここにイロの勝利を信じて疑わなかった者たちがいた。
「いけー! クロイス、イロ! 勝てー!」
「踏ん張れ、クロイス!」
「あと少しです、クロイス、イロ! 気を抜いてはいけませんよ!」
「クロイスー! 頑張ってー!」
「たまにはいいとこ見せなさいよ、クロイス!」
「頑張ってください、イロさん、クロイスさん!」
 そんな声が聞こえた気がして、クロイスは観客席をちらと見た。
 そこには、彼を全力で応援する仲間たちの姿があった。
「あいつら、あんなとこにいやがったのか」
 6人とも必死の顔だ。あのフェリオとアーネスですら熱くなっている。
 その気持ちが、クロイスには嬉しかった。リプトバーグで出会った時は、敵同士だった。彼はサリナの財布を掏り、収穫祭では敵対して争った。財布を取り返しに来たサリナたちと戦い、カインに手ひどくやられた。
 しかしいつの間にか、彼らはクロイスにとって、無くてなならない存在になっていた。世界に6人の、大切な仲間。何でも話せる、気の置けない存在。これまで孤独と戦い、必死に弟たちの面倒を見てきたクロイスにとって、サリナたちは初めて出来た友達だった。
 仲間たちの役に立ちたい。ひととして、正しい道を示してくれた仲間たちに、礼がしたい。そして純粋に、彼らの気持ちに応えたい。それらの感情が、クロイスの心を熱くする。
「いくぞ、イロ! 絶対勝つ!」
「クエー!」
 イロは全身全霊で芝生を蹴る。後ろにアロンダイトが迫る。しかしもう、彼らには前しか見えなかった。後ろのことなど、知ったことでない。
 勝つのは、俺だ。
 そして、さきほど以上の大歓声が沸き起こる。チェッカーフラッグが振られ、勝者の名が告げられた。

 出走したチョコボたちは疲労のケアを受けに厩舎へ入った。熱気の冷めやらぬレース場で、表彰式が行われた。その表彰台の最も高いところに立って、クロイスはひとつ低い段に立つランスロットと握手を交わした。
「まさか初心者に負けるとはね……僕もまだまだ訓練が足りなかったようだ」
 そう言って右手を差し出してきたランスロットは、いかにも誠実そうな好青年だった。年齢はクロイスよりも若干上というくらいだろう。サリナやフェリオと同じくらいに見える。
「まーな、俺たちゃ野山で鍛えてっからな」
 差し出された右手を握って、クロイスはにやりとしてみせた。ランスロットは頬を緩ませる。
「野山か……僕たちも行ってみないといけないな」
「ああ、いいもんだぜ、自然の中で走り回るのも」
「ははは。そうかもしれないな」
 激戦を戦い合ったふたりは、友情にも似た感情を抱いていた。クロイスは思った。出来ることなら、またレースに参加してみたい。
 彼らはそれぞれにメダルを受け、副賞を受け取る。その紅色の宝石の埋まった盾をクロイスが掲げると、観客たちから今一度の大きな歓声と拍手が上がった。
 と、クロイスは信じがたいものを目撃した。
「クロイスーーーーー!!!」
 観客席からコースに飛び出して来たのだ。カインが。
「ええええええええええ!? お前何考えてんだよ!?」
「うるせーーーー! てめえこの、偉いじゃねえかよおおおおお!」
「ええええええええええ!?」
 カインはクロイスの許へ駆け寄り、表彰式の最中だというのに、表彰台からクロイスを引き摺り下ろして頭を抱え、拳をぐりぐりとやった。係員たちは、こういうことには慣れているのか、特に止めようとはしなかった。ランスロットも楽しそうに眺めている。
「おめでとう、クロイス! やったね!」
「やるじゃないか、見直したよ」
「見事な走りでしたね。それに機転でした」
「盗む以外にも取り柄があったのねえ」
「クロイスさん、お疲れ様でした。お怪我はありませんか?」
 いつの間にか、他の仲間たちも集まっていた。誰か止めろよと思いながらも、クロイスはつい漏れてしまう笑いを止めることが出来なかった。