第87話
ラムウは杖を振りかざした。その先端から雷撃が迸る。幾本にも分散する雷撃が、サリナたち全員に襲いかかる。7色の戦士たちはその場から素早く離れ、雷帝の攻撃を回避した。 ユーヴ族の3人は戦いの場から離れた。彼らにはラムウを攻撃することは出来ない。だが、サリナたちの邪魔もしたくなかった。彼らは黙って、両者の戦いを見守ることにした。幸い、ラムウにも彼らを攻撃する意志は無いようだった。 「魔の理。力の翼。練金の釜!」 セリオルが調合を始める。両手に生まれた光を、彼はひとつに合わせた。 「マイティガード!」 防御の魔法と守護の魔法。そのふたつの守りの力が、サリナたちを包む。それに続いて、サリナも守りのための魔法を詠唱する。 「愚者よ見よ、その目が映すは我の残り香――ブリンク!」 サリナたちの姿に身代わりの幻影が重なる。幾度かの攻撃を自分たちの代わりに受けてくれる幻影を従えて、サリナは更に詠唱を続ける。 「古の戦を制せしかの城の、世界に冠たる堅固なる壁――ストンスキン!」 黄金の光がサリナたちを包む。一定のダメージを無効化する不可視の鎧が、彼らの身を守る。 「シスララ、幻獣との戦いは特殊です」 油断無くラムウを見つめながら、セリオルはシスララに説明した。幻獣には物理的な攻撃は意味が無いこと。逆に幻獣からも、直接的な物理攻撃は受けないこと。その代わり、マナによる攻撃や、自分たちのマナを奪われる攻撃が行われること。シスララはそれらに逐一頷き、素早く理解した。 「では、マナを纏わせた攻撃をすればよいのですね」 「そういうことです。頼みます」 「はい、かしこまりました」 そう言って、シスララは己の槍に意識を集中させた。先日、カーバンクルからアドバイスを受けた。聖のマナを槍に纏わせ、聖なる力で敵を攻撃する方法。シスララの槍が純白の光に輝く。 ついこの間初めてアシミレイトをしたというのに、シスララは既にその戦いを我が物としていた。セリオルはその、マナの扱いと戦闘のセンスに、胸中で舌を巻いた。 再び雷帝の雷撃が飛ぶ。クロイスは舌打ちをした。彼のアシミレイトは水の属性。雷相手には分が悪い。その上あの雷撃を飛ばされては、近づくに近づけない。盗賊刀での攻撃は難しそうだ。 「んにゃろう!」 彼は紺碧に輝くオーロラの弓を構えた。地のマナストーンの力を、マナストーンボックスで発動させる。矢尻の天狼玉が琥珀色のマナを纏う。彼はそれを3本同時に放った。 宙を切り裂いて、琥珀の光が飛ぶ。彼と同時にフェリオもマナ弾を放っていた。銀灰のマナ弾は空中で琥珀の光と融合し、その力を増幅させて雷帝へと飛ぶ。 「甘い」 だが、雷帝が杖を持つのとは違うほうの手を開いてこちらへ向けると、そこから紫紺色の波動が生まれた。波動は力のマナを得た紺碧の矢を迎撃するように飛び、そしてその力を奪うようにして矢を落とした。 「くそ!」 しかし彼らの攻撃は全てが無駄に終わったわけではなかった。 矢に気を取られたラムウの側面から、サリナが距離を詰めていた。彼女は沈黙のうちにラムウの懐へと入り込み、真紅のマナを纏って輝く鳳龍棍を突き出した。 だがその攻撃は、ラムウの法衣を僅かに捉えたに過ぎなかった。ラムウはその外見からは想像のつかないほどの俊敏さで跳躍し、その場を離れた。 サリナはそれを追った。敏捷さでは引けを取らない自信があった。 「魔の理。力の翼。練金の釜!」 しぶとく逃げ回るラムウに黒魔法の狙いが定められないセリオルは、再び調合を行った。片手に目薬、もう一方の手には雷のマナストーンを持っている。それぞれが輝く光を放ち、セリオルの手の中でひとつになる。 「バサンダ!」 セリオルの手から放たれたのは紫紺色の光。その意外さに、仲間たちから驚きの声が漏れる。紫紺の光が彼らの身体を包み、更なる守りの力を与える。 「これは……雷のマナか?」 銀灰の鎧に映える紫紺色に、フェリオが驚きとともにそう言った。 「雷属性の攻撃を軽減する効果があります。クロイス、少しはましになりますよ」 「へへっ! そりゃありがてえ!」 クロイスは盗賊刀を抜いた。水のマナの潤いに満ちた盗賊刀だ。ラムウに痛手を与えるのは難しいかもしれないが、彼には考えがあった。 サリナの追撃をかわすラムウが、突如向きを変えた。雷帝が突進した先にいたのは、カインだった。 「よお、爺さん。俺とやろうってのかい」 「わしを従えることが出来るか、お前に」 不遜とも思える軽口を叩くカインに、しかしラムウはにやりと笑ってみせる。サリナは追う足を止めた。この勝負には、立ち入らないほうがいいと彼女は判断した。 ふたつの紫紺の光が膨れ上がる。カインはイクシオンのマナを纏って待ち、ラムウは己のマナを増大させて迫る。その黒衣が、速さに揺れる。 「騎士の紋章よ!」 危険な予感に、アーネスがブルーティッシュボルトを掲げる。騎士の紋章が力を与えた光の盾は、琥珀色のマナを宿らせて更に巨大化した。サリナたちは全員、その盾の後ろに集まった。 「ラムウの狙いは、やはりカインでしたか」 琥珀の盾の後ろで身を屈めて、翠緑のセリオルは呟いた。 「え?」 サリナはセリオルを見上げた。彼女の傍らで長身をたたむセリオルは、カインとラムウの激突を見つめたままで答えた。 「ラムウは、雷のリバレーターの力量を最も重要視しているということです」 自らの力を託す相手。それが相応しい者であるかどうかを、ラムウは見ようとしている。他のリバレーターたちは、彼にとっては、いわばおまけなのだ。 「そっか……じゃあ、頑張って手伝わなきゃ」 「ええ。カインさんが、新たな力を手に入れられるように」 「神晶碑ってやつも、守らねーとだしな」 サリナはシスララ、クロイスと頷き合って、紫紺の光を見つめた。 ふたつの光が激突した。雷撃の塊同士が衝突したような、大気が爆裂したような衝撃音が走る。恐ろしい量の放電があり、雷帝の館が揺れた。 「ぬううううああああああああ!」 カインは全身の力、全身のマナを振り絞って、雷帝の攻撃を耐えた。 イクシオンとラムウは同じ雷属性の幻獣同士。彼は、雷属性の攻撃は全て吸収できるはずだと考えていた。 だがそれは違っていた。ラムウの力は、まるで重く強力な動力で突進してくる壁のようだった。カインは両手を前へ突き出し、足を踏ん張って声を上げ続けた。 『耐えろ、カイン! 耐えるのだ!』 イクシオンの声が頭の中に響く。その声も必死だった。イクシオンにしても、上位の幻獣の力に対抗するのは並みのことではないのだろう。 「あっ、たり、前だ、ろ!」 しかしその言葉とは裏腹に、カインの表情は苦しげだ。なんとか踏ん張ってはいるものの、マナの強さの差が埋まらない。 「セリオルさん、カインさんが!」 サリナの切迫した声が響く。誰もがそれを感じていた。カインが押されている。ラムウのマナは変わらず力強い。しかしカインの発するイクシオンのマナは、徐々にその勢いを失いつつあった。 「カイン……!」 セリオルは拳を握り締めた。ラムウはカインとイクシオンを試そうとしている。ここで力を貸しては、正統な評価を得ることが出来なくなる。しかし…… 逡巡する彼の傍らから、ふたつの影が飛び出した。銀灰と、紺碧。力のリバレーターと、水のリバレーターだった。 「フェリオ! クロイス!」 「危ないわよ! 戻りなさい!」 だがセリオルとアーネスの制止の声は、ふたりには届かなかった。 クロイスは恐ろしい量の放電を受けることも意に介さず、琥珀色のマナを纏う無数の矢を放った。オーロラのマナから生成した、マナの矢だ。マナストーンから地のマナを取り出し、彼はそれを放った。 フェリオはアシュラウルのマナを極限まで高め、銃身に込めて発射した。銃口からは巨大な力のマナの塊が射出された。 ふたつのマナは、再び空中で融合した。それはカインに力を傾けるラムウの横腹に、見事に命中した。 ラムウの呻き声が上がる。初めて、攻撃に成功した。瑪瑙の座の幻獣とはいえ、雷のマナに地のマナが有効であるということにおいては、アルカナ族と変わらなかった。 ラムウのマナが急激に弱まる。フェリオとクロイスは、更なる攻撃を加えた。それは地のマナの怒涛の津波となって、雷帝を痛めつけた。 その攻撃は、ついにラムウを弾き飛ばした。マナの放出が止まる。雷帝は地のマナの猛攻に、床を転がった。自分を押しつぶす壁が消え、カインはがくりと膝を折った。紫紺の光が消える。 「おい、ラムウ」 倒れ、立ち上がろうと杖に寄りかかる雷帝の名を、クロイスが呼ぶ。低く、力強い声だった。 「瑪瑙の座だかなんだか、しらねーけどな」 「うちの兄貴を、よくもやってくれたな」 激しい怒気に満ちたのは、フェリオの声だった。彼は銃口をラムウに向けたまま、全身から怒りを放散していた。 ラムウはその言葉には答えず、ゆっくりと立ち上がった。大きなダメージを受けたはずだが、その顔に苦しさは浮かんではいなかった。 「カインさん!」 サリナとシスララがカインに駆け寄る。赤毛の戦士は肩で息をしている。その表情は、彼の悔しさを如実に語っていた。 「ちくしょう……」 同じ雷のマナを操る者同士。そこにこだわるカインのプライドが、サリナに伝わってきた。 でも、とサリナは思う。 「カインさん、見てください」 サリナとシスララに支えられながら、カインは顔を上げた。 そこには、彼に背を向け、ラムウと対峙するふたりの少年の姿があった。彼の弟と、彼が弟同然に思っている少年だ。ふたりは、雷帝ラムウに対して、怒りをぶつけていた。 そして更に、琥珀色の光を纏う騎士が、光輝く剣を構えてラムウに攻撃を仕掛けた。アーネスは突進とともに、振り上げた琥珀色の剣をラムウに振り下ろした。ラムウは杖を上げ、その攻撃を防ぐ。マナとマナが拮抗する。 「ひとつだけ言っておくわ、ラムウ」 静かな声だった。凪いだ湖面のように波ひとつ無い。しかしその湖面の下には、煮えたぎる溶岩が潜んでいた。 「私を怒らせて、いいことは無いわよ」 ラムウから離れ、アーネスは剣を振るっていくつもの岩弾を飛ばした。地のマナの塊であるその攻撃を、ラムウはいくつかまでは防いだものの、あまりの数に防ぎきれなくなり、ついにその身体に痛恨のダメージを受けることになった。雷帝が呻き声とともに床に膝をつく。 「……へっ。あいつら」 仲間たちの姿に、カインは笑う。力が満ちる。身体ではない。心の力だ。しかし心の力が、身体にも力を与えてくれる。 彼は立ち上がった。そして同時に、自分の過ちを悔いた。 雷帝を味方につける。それには、誰よりも自分がラムウに認められなければならないと思っていた。だから、彼はラムウとの戦いを望んだ。どうせなら、単に協力を得るのではなく、ラムウに心底から力を預けたいと思わせたかった。 だが、それは違った。彼らの最も強い力は、信じられる仲間の存在だった。これまでもずっと、仲間たちと共にあったから彼はここまで来ることが出来た。目の前の力の魅力に、それを忘れてしまった。 それを、彼は悔いた。 「罪深き罪を忘れし悪鬼ども、偉大な大地に倒れ震えよ――クエイク!」 力強い地のマナが、下からラムウを突き上げた。中級黒魔法、激震の魔法。苦しげな声と共に、雷帝が宙を舞う。 「申し訳ありません、カイン」 そう言いながら、セリオルはカインに近づいた。ウィザードロッドがマナの光に輝いている。 「私も、間違えるところでした」 「はは。わりい、俺もだ」 差し伸べられたセリオルの手を、カインは握った。ぐいと引っ張られて、彼は立ち上がった。セリオルはカインの肩に手を置き、頷きかけた。 「仮にカインに加勢したことで、あなたから認められなくなったとしても」 言いながら、セリオルはゆっくりと振り返った。黒衣を纏い、紫紺の光を発する雷帝へと。 「我々の仲間を傷つける者は、許しません」 セリオルのその言葉に、カインはふっと小さく息を吐き出し、笑った。嬉しかった。彼がいつも発していた言葉。それが今、彼自身のために使われている。自分と同じく、仲間も自分のことを思ってくれている。それが、彼には嬉しかった。 「やいやいやい、雷帝とやら!」 力を取り戻した声で、カインは歩み出た。雷帝ラムウは両脚で立ち、杖を握ってこちらを静かに見ている。 「これから俺たちの、一番強え力を見せてやるよ。信じる仲間と一緒に戦う、最高の力をよ!」 言い放つと、紫紺色の鎧が光を取り戻した。イクシオンのマナが満ちる。それに続いて、サラマンダー、ヴァルファーレ、アシュラウル、オーロラ、アーサー、カーバンクル、碧玉の座の幻獣たちの力が増大する。7色の光が、それを操る戦士たちとともに復活した。 「……よかろう」 ラムウの迸る雷撃のような声が、厳かに響いた。雷帝も碧玉の座の幻獣たちと同じく、再び力をみなぎらせたようだった。 「本来であれば、雷のリバレーターを最も重視するところだが。お前たちの最大の力がそうだと言うのならば、それを確かめておくとしよう」 カインはその言葉を聞き届け、そして顔だけで仲間たちを振り返った。皆、勇ましいことに笑っている。勝利の確信ではない。自分たちの力をもう一度示そうという、それは決意だった。 「花天の舞・オーラジグ!」 シスララの舞が連れてきたマナが、皆に力を与える。攻撃力を増したサリナとクロイスが、まず飛び出した。真紅と紺碧の風が、雷帝に迫る。 シスララが天高く舞い上がる。ソレイユが甲高く嘶く。セリオルが魔法の詠唱を始める。カインが床を蹴って走る。フェリオが魔法銃を構える。 鳳龍棍とバタフライエッジによる猛攻が、杖で攻撃を防ぐラムウに襲いかかる。サリナとクロイスは交互に攻撃を仕掛け、雷帝に休む隙を与えない。 ふたりは細心の注意を払って攻撃した。ラムウの杖で攻撃されれば、マナを奪われる。それは体力を奪われる以上に、大きなダメージとなる。それは避けなければならなかった。 逆にラムウは、その隙を窺っている。碧玉の力にふたりの本来の戦闘能力が加わり、一概に彼の力のほうが勝っているとは言い難くなっていた。彼は特に、紺碧の力を揮う少年への攻撃に重点を置いた。地のマナでの攻撃をしかけてくるからということもあるが、この少年の属性は雷には弱い。それが狙う理由だった。 「あんたの考えなんてわかってんだよ!」 そう言って、クロイスは素早くラムウから離れた。サリナより自分に、雷帝の攻撃が向けられているのは気づいていた。当然、ラムウは水属性の自分をまずは片付けようとしているのだろう。 「よそ見してると危ないですよ!」 自分から離れたクロイスにほんの一瞬意識を向けたその時が、サリナに攻撃のチャンスを与えてしまった。真紅の少女は素早く回転し、渾身の攻撃を繰り出してきた。 ラムウはそれを、胴に受けてしまった。強い痛みが襲う。この少女の攻撃は危険だ。単なるサラマンダーのものだけではないマナを感じる。それが何なのか、ラムウにはすぐにはわからなかったが、危険だという事実だけで警戒するには十分だった。 反撃したラムウの目の前で、少女が消えた。ラムウは混乱した。そしてすぐに、彼は気づいた。少女が極端に姿勢を低くしたのだ。 しかし既に遅かった。沈み込んだ少女の後ろから、琥珀色のマナを纏った矢が飛んできていた。ラムウはその攻撃を、まともに受けてしまった。思わずうめき声が漏れる。 「まだ終わらねえよ!」 更に重ねるように聞こえたのは、雷のリバレーターの声だった。矢の向こうで、彼は両手で印を結んでいる。 「青魔法の陸・ロックスパイク!」 頭上に現われた土の錐を、彼はラムウに向けて飛ばした。これ以上痛手を被るわけにはいかない。ラムウは素早くその場を離れた。 しかしそこに、裂帛の気合と共に流星が落下した。純白の光を放つ、聖のリバレーターだ。さすがに直撃は免れたが、小癪なことに、彼女は着地の瞬間に聖の攻撃的なマナを放出し、自分の周囲に広げていた。地のマナほどではないが、ラムウにダメージを与えることに、シスララは成功した。 「次から次へと、鬱陶しい!」 杖を掲げ、ラムウは叫んだ。雷撃が迸る。さきほど雷のマナを防ぐ術を使ったようだが、それでも彼の攻撃は、リバレーターたちにダメージを与えた。 「瑪瑙の座の力、侮るでない」 繰り返し、彼は雷撃を放った。リバレーターたちはそれを受け、苦痛に悲鳴を上げる。さきほどの琥珀色の盾で守るような暇は与えない。 「古の戦を制せしかの城の、世界に冠たる堅固なる壁――ストンスキン!」 全身を貫く痛みに耐えて、サリナは堅守の魔法を詠唱した。ラムウの攻撃を受ければすぐに解除されてしまうが、かけないよりはましなはずだった。 「愚者よ見よ、その目が映すは我の残り香――ブリンク!」 幻影の魔法も再び詠唱して、サリナはもう一度雷帝に肉迫した。彼女には考えがあった。 真紅の猛攻がラムウに襲いかかる。雷帝は杖でそれを防いだ。この攻撃は危ない。その考えが、彼の視界を狭めた。 突如、雷帝の背中に激痛が走った。思わず、動きが止まる。我が身に起こったことがわからず、彼は混乱した。 「油断したわね」 聞こえたのはアーネスの声だった。ラムウの目を見ながら、サリナはにやりとしてみせた。彼女の狙いはこれだった。 ラムウの後ろに、アーネスがいたのだ。地のマナを纏う、琥珀色のリバレーター。ラムウを攻撃するのに、最も適任な戦士。 「……ぬかったか」 琥珀色の剣が、雷帝の背を切り裂いていた。地のマナを纏ったルーンブレイドでの攻撃は、雷帝にも大きなダメージを与えた。ラムウは膝をついた。 「罪深き罪を忘れし悪鬼ども、偉大な大地に倒れ震えよ――クエイク!」 その詠唱が聞こえ、ラムウは顔を上げた。痛みは激しいが、立たぬわけにはいかない。彼はなんとか、その場を離れることに成功した。 しかし、彼の足元は突き上げられることはなかった。その代わり、地のマナを増幅させた光線が襲いかかった。 その極太の光線は、ラムウの力を大きく奪った。たまらず、雷帝の口から叫び声が上がる。激しい痛み。雷のマナを消し去る、地のマナの痛みだ。 「ぐ……なるほど、確かに、大したものだ」 7人の戦士たちの波状攻撃に、ラムウは閉口した。自分の動きを止める者、そこに的確な攻撃を与える者、予想外の動きで迫る者。互いを信じ、理解しているからこそ出来る戦い。それは確かに、彼らの大きな力だ。 「だが、わしは瑪瑙の座の幻獣。碧玉の座の幻獣の力で、わしを倒すことはできん」 言い放たれたその言葉に、サリナは背筋を冷たくした。何か恐ろしい攻撃が来る。彼女は咄嗟に、仲間たちに呼びかけた。 「危険な攻撃が来ます! アーネスさん、お願いできますか!?」 即座に、彼らはひとところに集まった。アーネスが光の盾を掲げる。 「そんなもの、邪魔立てにもならぬよ」 ラムウは杖を掲げた。恐ろしい量のマナが集まる。雷光が収束する。リバレーターたちの顔が強張る。彼らは本能的に理解したのだ。この力の、いかに強力であるかを。 しかし、もう遅い。彼らは自ら申し出たのだ。仲間と共に戦うことを。それはつまり、敗れる時にも仲間と共であるということだ。雷のリバレーターひとりであれば、ここまでの力を使いはしなかったものを。 胸中でそう呟き、そして彼は杖を振り下ろした。 「来たれ……“雷轟”」 凄まじい轟音とともに、館の屋根を突き抜けた雷があった。館の入り口前にも落ちた、巨大な雷。古の書物に記され、アイユーヴの民たちが信仰の対象としてきた、神聖なる雷。神の力。雷帝の怒り。それはリバレーターたちへの越えられぬ試練となって、彼らの上に落ちた。 |