第91話

 集まったアクアボルトの民の前で、サンクは大きく息を吸い込んだ。アクアボルト自治区首都、享楽の街アクアボルト。そこに暮らす人々が、彼の治める自治区の血液だ。彼らの日常生活が自治区の力となり、暮らしと経済を回している。
 人々の表情は様々だ。サンクはバルコニーからそれを見る。ざわめく人々。吸った息を吐き出し、彼は口を開く。
「諸君!」
 朗として響いた彼の声に、民衆は口をつぐんだ。広場が水を打ったように静まる。少しの時間を置いて、今一度彼は呼びかけた。
「我々アクアボルトの民は、自治区の成立以来、永きに渡ってアイユーヴの民と対立してきた。それは悲しくも避けがたい、価値観の大きな隔たりだった」
 集った民は沈黙している。サンクは彼らの中に、レオンの兄、シモンの姿を見止めた。目が合うと、シモンは大きく頷いてみせた。サンクは悟った。シモンが民衆に、彼の意図をあらかじめ伝えたのだろう。
 悪くないことだと、彼は思った。それを聞いてなお、アクアボルトの民はここに集ったのだから。
「しかし、今日! 私は、アクアボルトとアイユーヴが互いを認め、共に生きる道が存在することを、改めてここに、宣言する!」
 反応は、すぐには無かった。自分の言葉が浸透するのに時間がかかったのかと、彼が戸惑うほどだった。
 だが、少しして、反応は返ってきた。そしてそれは、彼が歓迎しない類のものだった。
「今さらアイユーヴと共存なんて出来ない!」
「この暮らしを捨てろって言うの?」
「あんな原始的な連中といたら、アクアボルトは衰退するだけだ!」
 声を張る反対派の言葉が、サンクに届く。彼は目を閉じた。黒い感情が胸に広がるのを、彼は抑制しようとした。
 わかっていたことだ。いつも賛成派より、反対派の声のほうが大きいのだ。これまで幾度となく聞かされてきた言葉だ。彼の発言に対して、ああいった声が向けられるのは予想できていた。
 サンクは、小さく背後を振り返った。レオンが悔しさに、顔を歪めている。ユーヴ族の誇りを傷つける、心無い言葉。レオンには、反対派の声がそう聞こえているだろう。
「皆、聞いてほしい!」
 民衆に向き直って、サンクはそう叫んだ。更に言葉を重ねようと口を開いていた反対派の人々が、発する直前の声を止めた。それはサンクの言葉が、それまでずっと聞いていた、為政者としてのものではないと感じたからだった。
「先日、カジノでひとりの男が暴力沙汰を起こしたのは、皆も知っていると思う」
 サンクは語りかけた。彼が導き、共に生きていきたいと願う人々に向けて。人々はその思いを感じ取り、口を閉じた。
「彼が、その男だ」
 人々はざわめいた。サンクに促され、行政府のバルコニーに現われたのは、アイユーヴの民の服装を身に付けた男だった。
「俺はレオン。レオン・ブラシエールだ!」
 広場に集った人々の全てに届くように、レオンは大音声を張り上げた。怒りが、彼の声に力を与えていた。やはり、アクアボルトの民はアイユーヴを理解しようとはしないのか……さきほどの反対派の声が、彼にそう感じさせていた。
 その彼の肩に、サンクの手が置かれた。
 レオンは咄嗟に、サンクの顔を見た。アクアボルト領主は、静かな瞳で彼を見つめていた。その目は、彼に伝えた。冷静になれ、と。
 人々の間から、レオンを非難する言葉が発される。否応無く、それはレオンの耳に飛び込んでくる。その度に彼の心は波を立てる。
 しかしサンクは、静かに首を横に振る。彼は言葉にして言いはしなかった。言えるはずもない。領主としての立場で、彼は反対派の野次に耳を貸すなとは言えないだろう。だから自分に、力を篭めた瞳で、サンクは語りかけているのだ。
 レオンは息を吐き出した。そうだ。冷静にならなければならない。自分をこの場に送った、ラモンとシモンの思いに応えなければ。自分の個人的な感情で、このせっかくの好機を台無しにするわけにはいかない。
 彼はサンクに頷きかけた。それに答え、サンクが再び前に出る。
「聞いてくれ、皆! 彼がどうしてあんなことをしたのかを。そして、感じてほしい。彼らの思いを!」
 再び、広場は静まり返った。反対派の人々も、振り上げかけた拳を下ろした。
 レオンは、サンクに代わって民衆の前に出た。太陽の光が眩しい。雷雲ではなく、青空の下に栄える街。資本と享楽に育てられた、アクアボルトの都。そこに暮らす、自分たちとは異なる種類の人間に向けて、彼は口を開く。
「――すまなかった」
 ざわり、と。アクアボルトの民に動揺が広がった。
 レオンは、頭を下げた。バルコニーの手すりを両手で掴み、広場よりも高い場所からではあったが、彼は素直に、自分の非を認めていた。
 バルコニーに出る窓の後ろ、行政府庁舎の廊下からその姿を見ていたセリオルは呟いた。
「上手い」
 傍らのサリナが、自分を見上げるのを感じる。眼鏡の位置を直して、彼はこう言った。
「アクアボルトの人々、特に民族融合に反対する者たちの耳を、彼は今、開かせました」
 サリナはレオンの後ろ姿に目を戻した。広場に向かって頭を下げる、フォグクラウド村前戦士長の背中を。
 彼女は握った手を、胸に当てる。鼓動がいつもより速い。成功してほしい。その思いが、彼女の心臓を逸らせる。声には出さず、目を閉じて、彼女はレオンにエールを送る。
 カインはその背中を腕を組んで見つめていた。彼が殴り飛ばした男の背中を。
 あの時は、ただの考え無しな男だと思った。こんなところで暴れてどうなるってんだ。彼はレオンを愚弄した男を救った。その結果、レオンは彼を敵と見なして襲いかかってきた。短絡的なやつ。あの瞬間、確かに彼は、レオンを軽蔑していた。
 しかし、今は違う。レオンの思いを、彼は知った。ユーヴ族の誇り。それを傷付けられた、彼の怒り。その誇り高き思いに、彼は共感した。あの時レオンを止めたことを後悔してはいないが、レオンの行く先を見失った怒りに、彼も歯がゆさを覚えていた。
 だから彼は、レオンの背中を見つめる。同じ男として誇りを持って生きる、戦士の背中を。
「俺がカジノでしたことは、誤りだった。すまなかった」
 顔を上げ、レオンは広場の人々を見た。困惑を顔に表している者が多い。おそらく彼らは、レオンが頭から自らの行いを正当化することを予想していたのだろう。そうはいくかと、レオンは胸中でほくそ笑む。とはいえ、彼の言葉に嘘は無い。見境も無くあの場で暴れたのは、確かに間違いだった……いくつもの意味で。
「ただ、もし出来るなら、ひとつだけ聞いてもらえるだろうか――俺がカジノで、働いていた理由を」
 再び、広場の人々がざわめいた。彼らは予想していなかった。あの男がカジノで働いていた理由なんてことに、何の意味があるんだ? ただの出稼ぎじゃないっていうのか?
「俺は……アクアボルトとアイユーヴが共存出来るのかを確かめるために、ここに来た」
 ざわめきが大きくなる。人々は動揺していた。アイユーヴがアクアボルトと共生しようとしていたなんて、彼らは考えもしていなかった。領主サンクがひとりで喚く世迷言と、彼らはそれを捉えていた。民族融合に賛成していた人々でも、アイユーヴ側がそれに共感を示していたとは知らなかった。
 レオンの言葉は、アクアボルトの民を混乱させた。口々に主張や憶測を始めた人々が静まるのを待って、レオンは更に言葉を重ねる。
「だが、あの夜、俺はそれはやはり難しいと感じた。俺に向かってアイユーヴを愚弄する言葉を口にした観光客に、あんたたちは何もしなかった。静止もせず、ただ傍観した。あの男の言葉だけじゃない。俺は、あんたたちの態度も……悔しかった」
 もはや反対派も声を上げはしなかった。ただレオンの口にする言葉が、彼らの胸を突き刺し、うなだれさせた。
「……すまなかった、レオン」
 サンクの声が響いた。アクアボルト自治区の領主は、前に出てレオンに詫びた。それを見た人々の間に、さきほどとは違う種類の動揺が生まれる。
「我々は、客の怒りを買うことを恐れ過ぎた。誰もが誇りを失っていた。資本至上主義の悪しき部分に、我々は支配されていた」
 ざわめきが増大する。人々の混乱が高まる。もはや賛成派も反対派も無く、アクアボルトの民はただ、アイユーヴの民の思いを知らなかったことを悔い、あるいはそれを知らせなかったことに怒っていた。
「アクアボルトの民よ!」
 サンクは、広場の人々に今一度呼びかけた。ざわめきは止まらない。それでも、サンクは続けた。
「私は、認めるべきだと思う。アイユーヴの民の……いや、我々ユーヴ族全員の、強く持つべき誇りがあるということを!」
 その言葉に、ついに混乱が噴出する。民族融合反対派の者たちが声を上げた。
「待ってくれ! そんなことを言って、観光客が逃げちまったらどうするんだ!?」
「俺たちにも生活があるんだ! 誇りで食えるなら苦労はしない!」
 それらの声は、人々の本音だった。その言葉の後ろに、好きで貴族や豪商たちに媚びているわけではないという思いを、サンクは感じた。発せられる言葉の全てに耳を傾け、そして彼は口を開く。
「生活を捨てて誇りを取れとは、私は言わない! ただ、それを著しく傷つけられた時には、戦う勇気も必要ではないだろうか? 表立って対決する必要は無い。しかし、そうした人物を受け入れない姿勢が、我々にも必要ではないだろうか!」
 それを否定する言葉は、人々からは発されなかった。それを見て、レオンは思った。アクアボルトの民も、種類は異なるが、アイユーヴの民と同じように、矜持を持って生きているのだ。心無い言葉を向けられ、娯楽を提供する奴隷が如き扱いを受けることには、耐えかねる心が――あるいは、同族であるアイユーヴの民を愚弄する言葉を許せぬ心があるのだ。
「我々はかつて、ひとつの家族だった」
 自分の中の全ての思いを吐露するつもりで、サンクは言葉を紡ぐ。アクアボルトの民の心に届くようにと。
「それがふたつに分かれて、200年の時が経過した。アクアボルトとアイユーヴ、ふたつの暮らしを今、等しくすることは難しい。しかし、互いを認め、協力して共に生きていくことは出来るのではないかと、私は思う」
「……ありがとう、サンク」
 レオンは右手を差し出した。それは彼の、素直な気持ちだった。サンクはその手を握った。アクアボルトとアイユーヴ、ふたつのユーヴ族の代表が、和解の握手を交わした瞬間だった。
「俺は反対だ!」
 広場から声が上がった。若い男の声だった。
「こんな、観光客もいる場所でそんな話をしやがって! 見ろ、帰っちまった客もいるじゃねえか!」
 男の声に、アクアボルトの人々が一斉に、集まっていた観光客たちの姿を探し始めた。確かに数が減っている。人々に動揺が広がる。
「アクアボルトは娯楽を提供する街だ! それが、誇りなんてもんに邪魔されて、客にとって楽しみにくい場所になっちまったらどうするんだ! 俺たちの生活はどうなるんだ!」
 男の叫びもまた、サンクやレオンのものと同じく、心の底からの声だった。この街で客に金を落としてもらい、生計を立ててきた者としての、切実な思いだった。
 同様の声が高まる。観光客の数が減ったことが、彼らの不安を煽っていた。客にとって楽しい場所でないといけない。それがアクアボルトの存在意義であり、そこに暮らす人々が家族を守るための、唯一の手段なのだ。
 サンクとレオンは、その声に答える術を持たなかった。次第に声は高まった。こうして領主自らが大々的に発表した、民族融合。アクアボルトが自治区としてその方向性を打ち出したこと自体が、観光客の足を遠ざけることになるのではないか。そう主張し、人々は不安を拡大させる。
「ぐだぐだ言ってんじゃねえ!」
 人々の全ての声を掻き消すほどの声が、バルコニーから発せられた。
 アクアボルトの民は、その者の姿を見た。サンクとレオンを押しのけて現われた、赤毛の男の姿を。
「俺はカイン! カイン・スピンフォワードだ!」
 耐え切れなくなったカインは、仲間の制止を振り切って飛び出していた。彼は全身の力を喉に篭めて声を張り上げた。こいつら、何もわかっちゃいねえ。
「カジノでレオンが暴れた時に、あいつを止めたのはこの俺だ!」
 自分を見つめる人々の呆気にとられた顔に驚きが現われるのを、カインは見た。更に彼は続ける。
「確かに、俺はレオンを殴り飛ばした。けどなあ、俺があの時一番ムカついたのは、あのおっさんだ! 下らねえクソみてえな金を振りかざして、ひとを馬鹿にしてやがった。俺はな、あの時ただの客としてカジノにいた。客もなあ、ああいう馬鹿が頭に来るんだよ! ああいうクズが来れなくすりゃあ、客はもっと増えるんじゃねえのか! まともな頭の、まともな客がよ!」
 ざわめきが消える。雷に打たれたように、アクアボルトの民は卒然としていた。
「見ろよ。まだまだ客は残ってるじゃねえか。みんな同じ気持ちなんだよ。客が大事なら、ちゃんと客を見ろってんだ!」
 人々は周囲を見回した。貴族や豪商たち。確かに、若干数は減ったものの、大多数がその場に留まっている。数が減ったことに目がいきすぎていた――アクアボルトの民は、誰もがそう感じた。
「彼の言うとおりだ」
 援護に感謝しつつ、サンクは民に語りかけた。
「我らアクアボルトとアイユーヴ、共に同じユーヴ族だ。今一度、手を取り合って誇り高く、生きようではないか。一朝一夕とはいかずとも、新しいアクアボルト自治区の姿を造っていこうではないか!」
 そして彼に、レオンが続く。
「俺たちアイユーヴの民は、民族融合が実現出来ればいいと思っていた。一度は誇りを傷付けられて、それは困難だと思った。だが今、サンクがこうして言ってくれるのを、俺は嬉しく思う。もし皆もそうなんだったら、俺たちはもとの、ひとつの家族に戻れるんじゃないか? 困難はあっても、力を合わせて乗り越えていけるんじゃないか?」
 ふたりの言葉は、強い力を持って飛んだ。広場に集ったアクアボルトの民の心に、その力は確かに届いた。
「よく言った、サンク、レオン」
 突如、迸る雷撃のような声が響いた。と同時に、カインのリストレインが――いや、ラムウのクリスタルが強烈な光を放つ。
 その紫紺の神々しい光に、広場から驚愕の声が上がる。人々がこれまで、見たことも無かった光。神なる獣、幻獣が纏う、天の光。
 ラムウは、黒衣を纏って現われた。バルコニーの前に浮かび、紫紺の光を纏った雷帝の姿に、人々は戸惑う。
 彼らは、自らの内に刻まれた、古の記憶を感じていた。脈々と受け継がれてきた信仰心。生活の中に濃く現われはせずとも、親から、子、子から孫へと伝えられてきた、神に対する畏敬の念。それが、人々の心を支配した。
 直感的に、彼らは感じ取っていた。あれは、神だと。
「我が名は、雷帝ラムウ」
 アクアボルトの民は、ひざまずいた。観光客たちが戸惑う。
「アクアボルトの民よ。そなたらは、わしへの信仰心を忘れてしまったものと思っておったが……そうでもなかったようだな」
 ひざまずいた人々は、ぴくりとも動かなかった。ただ神の威光の前に、その言葉の力強さに、畏れを抱いていた。
「お前たち人間の生きる道について、わしは何も言わぬ」
 人々に混じっていたシモンも、やはりひざまずいていた。店のスタッフたちも同様だった。自然と出た行動だった。スタッフたちは皆アクアボルトの民だが、シモンと全く同じ行動を取った。そこに、民族の違いは無かった。
「だが、古の時代よりお前たちと付き合ってきたわしとしては、再びお前たちがひとつとなり、誇り高く生きようということを、嬉しく思うぞ」
 雷帝の声に感情が入るのを、シモンは感じた。その言葉が偽りではないと、その声が語っていた。
「顔を上げよ」
 ひざまずいたまま、人々は雷帝を見上げた。紫紺の光。黒衣に錫杖、長い髭。言い伝えの中にあり、人々に記憶に刻み込まれたとおりの姿。
「誇りを持って生きよ。誇り無き者は、生きておらぬと同じだ。わしの許で生きた民ならば、それなりの矜持を示してみせよ。楽しみにしておるぞ」
 そう言って、ラムウは光を放ってクリスタルに戻った。宙を飛び、カインのリストレインに収まる。
 少しずつ立ち上がった人々は、夢でも見たかのような顔だった。だが、今しがた起こったことは全て、現実だった。
「……彼らは、幻獣の御使いだ」
 静まり返った人々に、サンクがカインたちを紹介した。いつの間にか、サリナたちもバルコニーに出ていた。
「世界を脅かす敵が現われた。彼らは幻獣の御使いとして、その敵と戦っている」
 雷帝ラムウの姿が、人々にそれをすんなりと信じさせた。広場から無数の視線を向けられることに、サリナは緊張した。
「私は、今日ここに、誓おうと思う。アクアボルトとアイユーヴ、分裂したふたつのユーヴ族が再びひとつとなることを、雷帝ラムウと、御使いたちの前で!」
 その宣言は、木霊を伴って響き渡った。
 静まり返った広場。そこに、ひとつの拍手が生まれた。その主を、サンクは見た。シモンだった。
 拍手は徐々に広がった。やがてそれは、広場全体を包み込む喝采となった。人々は自らに誓った。どんな困難があろうと、誇り高く生きることを。アイユーヴを認め、共に助け合っていくことを。そうして、アクアボルトを真の意味での、強い自治区にすることを。
「なんかえれーことになったな」
「ああ。目立っちゃまずいんじゃなかったか、俺たち」
 その大喝采の陰で、バルコニーに並ぶリバレーターたちは困惑していた。クロイスとフェリオは、ゼノアに見つかりはしないかと気が気ではなかった。
「そん時ゃそん時だ。あいつが何かしてきたら、ぶっ飛ばせばいい」
 カインはそう言って笑った。彼はレオンと肩を組んでいた。本当に嬉しそうな笑顔だった。
「うんうん、そうですよね!」
 サリナは目尻に浮かんだ涙を拭いながら、そう言った。今はゼノアのことなんて考えたくなかった。ただ、サンクやラモンの苦労、レオンやシモンの思いが報われたことが嬉しかった。
「全く楽天的ね、うちのひとたちは」
「ふふ。でも、私はそこが好きです」
 広場の人々に手を振りながら、アーネスとシスララはそう言って笑い合った。
「やれやれ。カインには困ったものですね。また勝手をして……まあ、終わり良ければ全て良しとしておきますか」
 セリオルはそう言ってぼやいたが、彼も微笑むのを隠そうとはしなかった。
「おぬしら、よくやってくれたな」
「本当にありがとう。どれだけ感謝してもしきれないよ!」
 後ろから、ラモンとセリノの声が聞こえた。サリナは振り返った。フォグクラウドの長老は、頬を緩め、笑っていた。戦士長は真っ赤な両目に涙を浮かべていた。
 こうして、アクアボルト自治区の歴史的な民族融合は達成された。