踏みしめて歩く道

 小さな蝋燭の明かりの下で、粗末なテーブルにごく質素な食事が並べられている。ひとりひと欠片のパンと、ほんの少しのスープ。スープの具は、芋とトウモロコシ。4人の兄弟が食卓を囲んでいる。
 弟たちが食事するのを、クロイスは頬杖をついて眺めていた。栄養たっぷりとは、到底言えない食事だった。味もほとんどついていない。パンは焼かれてから日数が経っているため、硬く、噛むのが大変だった。それをニルスたちは、美味しいと言って食べる。
「ごめんな、お前ら」
 小さな声でぼそりと、クロイスは言った。彼の目は卓上の蝋燭の炎に注がれていた。小さく揺らめく、頼りない火。弟たちの顔をおぼろげに照らす、小さな火。
「どうして?」
 ニルスの表情には何の屈託もなく、クロイスを見るその目は澄んでいた。その視線を受け止めることが出来ず、クロイスは目を逸らす。部屋の隅にうずくまる黒い影に、彼の目は向いた。そこには何か得たいの知れない、小ざかしい魔物がいるように思えた。
 何も答えない兄に首を傾げて、ニルスはパンを噛んだ。スープに浸したパンは多少は柔らかくなって、ほとんど無いに等しい味も少しは香ばしく思えるようだった。
「お兄ちゃんも食べたら?」
 ソフィーが言った。幼い妹の皿は、既に空だった。
「お前らが食え」
 クロイスは自分のパンとスープを弟たちの前に押しやった。ソフィーとロニが顔を輝かせる。いいのと聞くふたりに、クロイスはただ頷いた。こんな食事でも喜んで食べる小さなふたりが、彼にはやるせなく映った。ニルスはそんな兄を、心配そうに見つめている。
「ちょっと出かけてくる――メシの片付けして、早めに寝ろ」
 帽子を目深にかぶって、クロイスは席を立った。そのまま玄関口へ向かう。玄関脇に置いてあった短剣を2本、腰に差して。
「兄さん、どこへ?」
 ニルスが立った。椅子がガタッと音を立てる。その表情は不安で溢れていた。何かを恐れているような、危惧しているような、そんな顔だった。
「ちょっと野暮用だ。朝までには帰る。お前らは寝てろ」
「お兄ちゃん、早く帰ってきてね!」
 ロニは元気だった。最年少の弟はまだ6歳で、控えめに言っても痩せすぎていた。その弟をちらりと見て、クロイスは扉を開いた。
「兄さん……」
 ニルスの声は、閉じられた扉に遮られてクロイスには届かなかった。

 暗闇の中を走って、走って、走って、走って、たどり着いた。乱暴に閉じられた扉が建物を揺らす。
 その場で座り込んで、クロイスは肩で息をした。動悸が激しい。太股から下が無くなったような感覚。身体の末端に、力が入らない。右手を顔の前で握ってみる。手が動いているのが不思議だった。四肢が千切れるかと思うほど、彼は疾走した。
「なあおい、いい加減にしろよ」
 髯面の男が言った。褐色の肌の大柄な男である。小柄なクロイスの2倍は体重がありそうに見える。同じく、年齢も2倍くらいに思われた。男はクロイスがへたり込んでいる部屋の入り口で、扉の枠にもたれ掛かってうんざしりた表情を浮かべていた。
「うる、せえよ」
 息切れのために絶え絶えの声で、クロイスはなんとか言い返した。彼は木箱に体重を預けて、天井を仰いでいた。彼の傍らにはたっぷりの食料が入った紙袋と、財布と思しき物体があった。
「そのうち本当に捕まるぞ」
 呆れたように言う男に、クロイスは小馬鹿にしたような顔を向けた。
「へっ。街のウスノロどもなんかに、俺が捕まるかよ」
 それを聞いた男は、鼻を鳴らして部屋へ入った。そこは毛皮屋の倉庫だった。店舗の裏手にあり、仕入れ等を行うための出入り口が付いている。
「奴らもただ走って追いかけて来るだけじゃないだろう。集団で追い込まれて、いずれ逃げ道が無くなる」
「うるせえよ、余計なお世話だ」
 憎まれ口を止めないクロイスに、毛皮屋の男は白い目を向ける。
「危なくなる度に逃げ込まれる俺の身にもなったらどうだ。俺まで共犯と思われちまう」
「だからそんなヘマはしねえってんだろ」
「どうだかな」
 毛皮屋はそう言い捨てて戻って行った。彼はクロイスから野生動物の毛皮を仕入れることが多いため、少年に対して強く出ることが出来なかった。ぶつぶつと毒づきながら、彼は去った。
 クロイスは右手で左肩を押さえた。投げつけられた石が命中した箇所だった。鈍い痛みが尾を引いていた。
「ちくしょう……」
 彼は俯いた。無機質な倉庫の床が冷たく光る。夜気にじっとりと露が浮かぶような冷たさだった。
 両脚を抱えたうずくまる少年の上で、羽虫が飛んでいる。音は聞こえなかった。クロイスの息が荒いためかもしれなかった。
 土の湿気を遮断するために、倉庫には粗く磨かれた石が敷かれている。石は冷たく、底冷えする寒さだった。
 街で奪ってきた紙袋をちらりとクロイスは見た。野菜、果物、紙に包まれた肉類、そしてパン。身なりの良い婦人が両手で抱えていた、たっぷりの食料。富と豊かさの象徴。クロイスには縁遠いものだった。
 荒々しく、彼はパンを掴み取った。今日焼き上げられた、まだ柔らかいパン。クロイスはそれに噛み付いた。ぶちりと音を立てて、パンがちぎれる。顎を大きく動かして、クロイスは口いっぱいのパンを咀嚼した。甘く広がる小麦の味。僅かに塩気を含んでいる。こんな贅沢なものを毎日食べているやつがいる。そう考えただけで、彼の心はざわめいた。
 家族で旅行したマキナ島で、両親が死んだ。クロイスはまだ幼かった。ニルスやソフィーも小さく、ロニはまだ何が起きているかすらわかっていなかった。
 マキナ島、水晶の泉。氷が張ったように凛として、太陽の光を反射する不思議な泉だった。まるで水の結晶が浮かぶかのように、水面はきらきらと輝いていた。森の中にあって、泉は魔法のように美しかった。
 泉のほとりで、両親は死んだ。無残にも、血を流して。息を引き取る寸前、両親はクロイスの手を握って言った。
「クロイス、ニルスと、ソフィーと、ロニを、頼んだぞ」
「ごめんね……皆を守ってあげてね、クロイス」
 少年の慟哭は両親には届かなかった。陽の光を浴びて結晶の煌く水晶の泉で、ふたりは冷たき亡骸となった。
 叫ぶクロイスの瞼には、両親の命を奪った怪物の姿が焼き付いていた。鱗持つ巨鳥。トカゲのようでありながら、その身体は七色の羽根で覆われていた。不可解だったのは、怪物がその身に纏う光だった。その羽根と同じ、七色にたゆたう光。怪物が動く度、光は細かい粒子となって宙に舞った。その光景を美しいと感じた時、怪物は両親を襲っていた。
 永遠に思われた時が過ぎ、傍らには銀色のイルカがいた。額に長い角が生えている。不思議なことに、そのイルカは宙に浮いていた。紺碧の美しい光を纏っている。
 イルカは幻獣を名乗った。初めて目にする人語を操る不思議な動物に、クロイスは瞬間、悲しみと絶望を忘れた。
 オーロラというらしい幻獣は、両親を手厚く葬ってくれた。水のマナに祝福されて、両親の遺体は泉の底へ沈んでいった。美しき花の装飾と共に。
 幻獣は泉を出て、クロイスに付き従った。オーロラの助けもあって、兄弟はなんとか穀倉の街へたどり着いた。クロイスが考えたのは、何よりも食料の確保だった。王国の穀倉と呼ばれるリプトバーグなら、弟たちを食べさせてやれると思った。
 しかし世間は兄弟に冷たかった。街の多くのひとが農業に関する職に就くこの街では、家族以外の者を雇って商売をするということ自体が少なかった。職は簡単には見つからず、その間にも飢えで弟たちは衰弱していった。オーロラが提供する水は清浄でマナの恵み豊かだったが、人間は水だけでは生きられない。
 兄弟たちは幼すぎた。まだ2歳のロニの世話を見るのは、クロイスには至難の業だった。彼には金も無く、弟たちを食わせることは困難だった。
 クロイスは顧みる。リプトバーグの八百屋や青果店が並ぶ通り。豊作だったりんごが、無数に並べられていた。彼はなんとかして日銭を稼ごうと、街の外へ狩りに出るところだった。その彼の目に、真っ赤に熟した美しい果実が飛び込んだ。彼は想像した。りんごの実を口いっぱいにほおばって、その果汁を少し口の端から垂らしながら、満面の笑顔を浮かべる弟たちを。ぎゅっと目を閉じても、頭を振っても、その幻は消えなかった。
 ことは実に簡単だった。店主たちが客の呼び込みをしようと違う方向を見た瞬間に、果実を掴んで袋に入れる。それを数度繰り返しただけだった。クロイスは狩りを中止して、住処にした小屋へ戻った。
 弟たちは喜んだ。想像した通りの笑顔だった。甘く瑞々しい果実を口に含んで、クロイスは涙した。様々な種類の感情が押し寄せた。喜びが、悲しみが、怒りが、憎しみが、後悔が、全て一挙に流れ込んで、彼の心を乱した。
 生きていくのは困難だった。努力に努力を重ねても、どうにもならないことがあった。そんな時、クロイスは盗みを働いた。言い訳だとはわかっていても、そうするしかないのだと彼は自分に言い聞かせた。そういう日、ほんのささやかな贅沢を兄弟は味わった。このくらいは許してくれてもいいと、クロイスはオーロラに言った。オーロラは何も言わなかった。両親を亡くした少年たちが生きるにはそれしかないと幻獣も思ったのだろうと、クロイスは解釈した。
 そうして彼は生きてきた。いつしか街の住人たちは、兄弟を白い目で見るようになった。クロイスの盗みは決して露見せず、証拠は何も無かった。しかし治安の悪化の背後にその影を見たという噂が広がっていた。
 クルート兄弟の小屋が襲われたことがあった。クロイスの留守中、街の少年たちだった。学校にも行けず、盗みを繰り返して暮らしている連中がいるという噂が招いた事態だった。正義の名の下、少年たちは過熱した義憤を撒き散らした。帰ってきたクロイスが怒り狂って少年たちを撃退した。病院送りになろうが構わなかった。弟たちの無事を確認して、クロイスは泣いた。自分が情けなかった。彼は、両親から託された大切な家族を、守れずにいた。
「……ちくしょう」
 小さく、クロイスは呟いた。飲み込んだパンが砂の塊に思えた。

 クロイスには、ある計画があった。4年間のリプトバーグでの生活で、少しは商売のことを学んでいた。生計を立てるために狩りをしながら、彼は動物の毛皮や角、牙などを売り物として加工する術を身に付けていた。手間をかけることで、商品としての価値は上がった。彼は狩りの収獲を毛皮屋や武具の素材店に売った。そうやって商売人とやり取りをしていく中で構築されたのが、素材品を専門に扱う卸売り店を開くという構想だった。
 そのためには元手が必要である。とは言っても、時間をかけて資金を貯めることはしたくなかった。可及的速やかに、店を開かなければならない。現状を脱出するにはそれしかないと、彼は確信していた。
 午後。彼はリプトバーグの街を歩いていた。目的地は特には決めていない。金になる話があればと、当ても無く徘徊しているだけである。
「ちまちま毛皮やら売ってたって、金になんかなりゃしねーし……」
 道を舗装する石畳を見つめながら、クロイスは歩いた。
 リプトバーグは街中が商店街のようなものである。目抜き通りが最も賑やかだが、そこから枝分かれする路地も、そのほとんどに露店が並ぶ。ひとが多ければ、それだけ儲け話も多いはず。クロイスはそう単純に考えていた。
 住人全てがクロイスを盗人と見ているわけではもちろんなく、彼は平然と露店街を歩いていた。今は食料はある。買い物をする必要は無かった。彼は街の人々を観察していた。
 例えば、目の前の八百屋は明らかに人手が足りていない。老舗で知られる店である。街でも有数の農場を保有する一族の店舗で、品数も客足も多い。しかしそれに反して、働いているひとの数が少なかった。一族経営をしているためだろうと、クロイスは推測した。こういうところは、人手が多少足りないくらいで他人を雇ったりはしない。人件費が出て行くことを嫌うからだ。
 その向かいの生花店は、宣伝が下手だった。店の中の陳列棚には様々な花が並んでいるようだ。しかし店先がよろしくない。限られた種類の花が寂しげに並ぶだけで、客を呼び込む力が感じられない。職人気質の店主なのかもしれない。あるいは限定顧客のみを相手にしようとしている店なのか。いずれにしても、ここで働いて大きな稼ぎを手に出来るとは思えなかった。
 もちろん、地道に働いて少しずつ資金を貯めるという方法もある。しかしそれでは、弟たちに豊かな生活を提供出来ない。自分は無理だったが、出来ることなら弟たちにはきちんとした学校教育を受けさせてやりたい。ニルスはもう12歳だ。今になって、遅すぎたとクロイスは思っていた。
 4年間、必死で生き抜いてきた。何も出来ないところから、少しずつ出来ることを増やして命を繋いできた。しかしいつまでも盗みに手を染めてはいられない。真っ当な手段で、早急に金を貯めて弟たちを学校へ通わせる。それが彼の目標だった。
「やっぱ、ちょっとは危険な仕事じゃねーとだめか」
 彼は自警団の詰め所へ足を向けた。傭兵の志願をしようと思ってのことだった。これまでにも傭兵のことを考えなかったわけではない。しかし傭兵として働くとなると、家を空けることが必然的に多くなる。弟たちのことを思うとそれは避けたかった。
 だが、最近ニルスがかなりしっかりしてきた。次兄としての自覚も芽生えたか、ソフィーやロニの世話をよく見ている。お陰でクロイスは、安心して外出することが出来るようになった。ニルスに任せれば、多少の遠征等は大丈夫かもしれないと、彼は考えるようになっていた。
 自警団には何度も追い回されたが、顔を見られていない自信はあった。暗闇に紛れることで、彼は自分を隠してきた。
 詰め所の扉をくぐる。受付カウンターのようなものがあり、奥に大きなテーブルが見えた。その椅子に座る男がクロイスをちらと見たが、すぐに視線を戻した。男は大きめのカップでコーヒーか何かを飲んでいた。傭兵のように、クロイスには見えた。
 扉の開いた音を聞きつけて、自警団員が現れた。その青年はにこにこと爽やかな笑顔で言った。
「こんにちは。どういったご用件で?」
 街の住民に向けるのだろうその笑顔から顔を背けて、クロイスはぼそりと言った。
「傭兵を志願したい」
「えっ!?」
 自警団の青年は驚きの声を上げた。青年はクロイスをつま先から頭のてっぺんまでしげしげと眺めた。その視線を感じて、クロイスはむっとして青年を睨んだ。
「あんだよ」
「あ、いえいえ、いやその」
 胸の前で両手を振る青年の後ろから、テーブルについていた男が出てきた。さきほどは見えなかったが、男は右目の上に大きな傷を負っていた。上背があり、眼光が鋭い。
「人手は足りてる。小僧の出番じゃねえんだよ」
「ああ?」
 クロイスは男を睨み付けた。男は直立したまま、目だけでクロイスを見下ろした。
「てめえ、何だよ」
 牙を剥くようにして低く言うクロイスに、男は嘲笑を浮かべてみせた。自警団の青年はおろおろと、男とクロイスの間で視線を行ったり来たりさせている。
「お前、いくつだ?」
「16だ。文句あんのか」
 男は鼻から息を吐き出しただけで、背を向けた。そのまま何も言わず、もとの椅子へ戻ろうとする。
「おいてめえ、何なんだよ!」
 吠えるクロイスに、男は足を止めた。首から上だけで振り返って、男は言った。
「帰れ。ガキが命を危険に晒そうと考えるんじゃねえ」
「うるせえよ、余計なお世話だ! 俺には金が必要なんだ!」
 男は再び前を向いた。男の背中は大きく、首は太い。その首には、何かに噛み付かれたような傷跡が生々しく見えた。
「大したことない魔物どもとの戦いでも、群れに囲まれることもある。死んで誰も悲しまない人間になったら、また来い」
 そう言い置いて、男はテーブルに戻った。マグカップをゆっくりと持ち上げ、中身をすする。
 自警団の青年は、少年が悔しそうな表情を浮かべるのを見た。彼は男に何も反論出来なかった。大切なひとがいるのだろうと、青年は思った。青年は紙を1枚取り出し、咳払いをした。
「参加してみたらどうだい?」
 自分の弟に言うような口調で、青年はクロイスに話しかけた。クロイスは目だけを動かして青年を見た。片手で、彼は紙をひらひらさせていた。
「収獲祭……?」
 何のことかわからず、クロイスはその紙に書かれた文字をただ読んだ。青年は頷き、演説でも始めるかのようにもうひとつ咳払いをした。
「今年の収穫祭はすごいよ。マキナで大枯渇があっただろ? あそこを復興させるためのお金を集めるんだってさ。そのために用意された目玉が――」
「賞金、100万ギル!?」
 チラシの文字に、クロイスの両目がギルマークに変わった。
「あはは。すごいだろ? ひとが集まれば、100万ギル以上のお金なんて簡単に集まる。商店の売り上げの一部も寄付に回すらしい――」
 話している間に、クロイスはいなくなっていた。青年はやれやれと微笑んで、傭兵の男を振り返った。静かにコーヒーを飲む男が、僅かに微笑んだようだった。
 外は日暮れを迎えようとしていた。斜陽の中、クロイスは収穫祭のチラシを覗き込むようにして見つめながら通りを歩いた。
「すげえ……100万ギルあれば、店、開けるかな」
 ぶつぶつと呟くクロイス。チラシしか見ていないのに、彼は器用に雑踏を避けて歩いた。
 知らぬ間に精肉通りに来ていた。様々な肉類が扱われる通りである。買い物客で溢れる賑やかな露店街。クロイスは顔を上げた。
 妙な連中がいた。背中に大きな荷物を抱えて、この雑踏の中をえっちらおっちら歩いている。大きな荷物は全部で4つだった。そのうちひとつは、小柄な人物が背負っているのだろう、持ち主の姿が見えず、荷物がひとりで歩いているようにも見えた。
「なんだありゃ」
 旅人だろうと、クロイスは推測した。収穫祭へ参加するために来たのだろうか。いずれにしても、あれだけの大荷物を用意出来るのなら、多少は金を持っているかもしれない。これからクロイスは、収穫祭の準備に入らなければならない。昨日獲得した食料が無くなったら、食べる手段が無くなる。
 少年は帽子を目深にかぶり、ふらふらと揺れる大きな荷物に向けて足を踏み出した。